「はやぶさ2が持ち帰った石は現在どうなっているの?」「全部研究に使われたのか、それともどこかに保管されているの?」と気になっている人も多いのではないでしょうか。
はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った石や砂は、現在もJAXAを中心に厳重に管理され、一部はNASAや国内外の研究機関へ配分されています。しかも研究は終了しておらず、2026年現在も新しい分析が続いています。
この記事では、リュウグウの石の現在の保管場所、持ち帰った量、これまでに分かったこと、実物を見る方法、さらに「はやぶさ2」本体の現在まで分かりやすく紹介します。
はやぶさ2が持ち帰った石は現在もJAXAなどで保管・研究されている

結論からいうと、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの石や砂は現在も残っており、JAXAで保管されながら世界中の研究者による分析に使われています。
帰還試料がすべて一度に分析されてなくなったわけではありません。むしろ将来の技術で調べるため、意図的に多くの試料を残す方針が採られています。
中心となる保管場所はJAXA相模原キャンパス
2020年12月に地球へ届けられたリュウグウ試料は、神奈川県相模原市にあるJAXA宇宙科学研究所の地球外試料キュレーションセンターへ運ばれました。
「キュレーション」とは、貴重な地球外試料を汚染させずに受け入れ、分類・記録・保管し、必要に応じて研究者へ提供する作業です。単に倉庫へ置いておくのではなく、科学的な価値を何十年にもわたって維持するための管理が行われています。
JAXAの地球外物質研究グループのリュウグウ試料ページでも、帰還物質を地球外試料キュレーションセンターで受け入れ、初期記載やカタログ作成を行い、公募研究に提供していることが案内されています。
一部はNASAでも保管されている
リュウグウ試料は日本だけにあるわけではありません。JAXAとNASAの協力協定に基づき、持ち帰った試料の約10%にあたる約0.5gがNASAへ提供されました。
NASAでは米国テキサス州のジョンソン宇宙センターに専用のキュレーション設備を設け、リュウグウ試料を保管しています。2026年にもNASAのキュレーション担当者がJAXAを訪れ、長期保存や地球外試料の取り扱いについて技術交流が行われています。
つまり「リュウグウの石は今どこにあるのか」という問いに対しては、中心はJAXAですが、一部はNASAや研究のために配分された国内外の機関にもあるというのが正確です。
2026年現在も世界の研究者に試料が配られている
試料分析は帰還直後の数年間だけのプロジェクトではありません。JAXAは研究提案を世界から募集し、採択された研究チームへリュウグウ試料を提供しています。
2026年3月に公表された2025年度の研究公募結果では、11か国から36件の研究提案を受け付け、24件を採択して新たに55試料を選定しました。さらに2026年度にもリュウグウ試料とNASAの小惑星ベヌー試料を対象にした研究公募が行われています。
リュウグウの石は「過去の展示物」になったのではなく、2026年現在も研究対象として現役です。
はやぶさ2はリュウグウから約5.4gの石や砂を持ち帰った

ニュースでは「リュウグウの石」と表現されることがありますが、実際に持ち帰ったのは大きな岩石一個ではありません。黒っぽいミリメートル級の粒子から細かな砂・粉末まで、さまざまな大きさの物質です。
目標の0.1gを大幅に上回る量を回収した
はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウ試料の総量は、帰還直後の計測で約5.4gと発表されました。当初、ミッションで科学分析に必要と考えられていた目標量は0.1gでした。
したがって、実際には目標を50倍以上も上回る量の物質を地球へ届けることに成功したことになります。5gほどと聞くと少なく感じますが、現代の分析装置ではミリグラム以下の物質からも多くの情報を取り出せます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 帰還日 | 2020年12月6日 |
| 採取した天体 | 小惑星リュウグウ |
| 試料総量 | 約5.4g |
| 当初の目標量 | 0.1g |
| 主な試料 | 岩石粒子、砂、細かな粉末 |
リュウグウの2か所から試料を採取した
はやぶさ2は2019年2月22日と7月11日の2回、リュウグウへのタッチダウンを行っています。1回目では表面の物質を採取し、2回目では人工クレーターを作った場所の近くへ着陸しました。
2回目の大きな目的は、宇宙空間に長期間さらされてきた表面だけでなく、人工クレーター形成によって掘り起こされた地下由来の物質を採取することでした。分析からは、人工クレーター形成に伴って放出された内部物質を実際に回収できていたことも確認されています。
異なる場所から試料を持ち帰れたため、単なる「リュウグウの石1個」を調べるよりも、表面と内部の歴史を比較できる価値があります。
肉眼で見ると黒っぽい小さな粒に見える
リュウグウの試料にはミリメートル単位の粒子が数多く含まれています。JAXAでは個々の粒について、大きさ、形、重量、光学画像、赤外線の反射特性などを記録してカタログ化しています。
2023年の時点ですでに、サンプルキャッチャから個別に取り分けられた試料は1,000を超えていました。ひとまとめになった5.4gの石を少しずつ削っているのではなく、多数の粒子を分類しながら管理していると考えると分かりやすいでしょう。
持ち帰った石から現在までに何が分かったのか

リュウグウ試料が重要なのは、単に「小惑星の石を地球へ運んだ」という記録のためではありません。地球の水や生命の材料がどこから来たのか、約46億年前の太陽系で何が起こったのかを調べる手掛かりが含まれているからです。
非常に始原的な炭素質の物質だった
化学組成や同位体組成の分析から、リュウグウの物質は「CIコンドライト」と呼ばれる非常に始原的な炭素質隕石に近いことが分かりました。
始原的というのは、太陽系ができてから大きく溶けたり分化したりせず、初期の材料の特徴を比較的よく残しているという意味です。そのためリュウグウ試料は、太陽系初期の物質組成を考えるうえで非常に重要な基準となっています。
しかも地上で拾われた隕石とは違い、どの天体のどの場所から採取したかが明確です。地球の雨や土壌、大気にさらされる前の状態に近い試料を分析できることも、サンプルリターンならではの強みです。
アミノ酸など多種類の有機物が確認された
リュウグウ試料からは、生命に関係する分子として注目されるアミノ酸を含め、多種類の有機物が確認されています。分析の一つでは、異性体を含む23種類のアミノ酸が検出されました。
さらに、RNAを構成する核酸塩基の一つである「ウラシル」や、ビタミンB3として知られる「ナイアシン」も確認されています。
この結果は、生命が誕生する前の地球に小惑星などが有機物を運び込んだ可能性を考えるうえで大きな手掛かりになります。ただし、地球生命の材料が実際にどの程度小惑星から供給されたのかについては、現在も研究が続いています。
水と反応した痕跡だけでなく液体の水も見つかった
リュウグウの鉱物や有機物の多くには、過去に液体の水と反応した証拠が残されていました。さらに硫化鉄の内部から、二酸化炭素を含む液体が閉じ込められた微小な包有物も確認されています。
現在の小さなリュウグウに海が存在していたという意味ではありません。リュウグウが現在の姿になる前の、より大きな「母天体」の内部で氷が溶け、液体の水と岩石が反応していたと考えられています。
こうした結果から、現在は乾いて見える小惑星でも、その材料がたどった過去には水が重要な役割を果たしていたことが分かってきました。
塩の結晶も発見されている
2024年には、リュウグウの砂粒から炭酸ナトリウム、岩塩、硫酸塩などを含む微小な塩の結晶が見つかったことが発表されました。
これらは、リュウグウの母天体に存在した塩水が蒸発したり凍結したりして失われる過程で析出したと考えられています。リュウグウ内部にどのような水環境が存在したのかを復元する新しい証拠です。
JAXAのリュウグウ研究成果ページには、鉱物、有機物、ガスなど多方面から行われた分析結果がまとめられています。
なぜリュウグウの石を全部分析せず保管しているのか

これほど貴重な試料なら「今使える最新機器で全部調べたほうがいい」と思うかもしれません。しかし、サンプルリターンでは残しておくこと自体が重要な科学戦略です。
将来の分析技術は現在より進歩する可能性が高い
JAXAが帰還後に示した試料配分方針では、約60%を将来のために保管する枠としました。一方で、NASAへの配分や初期分析、国際公募研究、広報・展示などにも一部が割り当てられています。
実際の配分状況は研究の進展に応じて管理されますが、重要なのは「現在の研究者ですべて使い切らない」という考え方です。
数十年後には、今よりはるかに少ない試料から、現在は測れない成分を検出できる装置が生まれている可能性があります。月のアポロ試料でも、帰還から数十年後に新しい分析技術によって新発見が得られています。
研究者なら自由に石をもらえるわけではない
リュウグウ試料を希望すれば誰でも入手できるわけではありません。研究者は目的や分析方法、必要な試料量などをまとめた研究提案を提出し、科学的価値などを審査されたうえで試料の配分を受けます。
第1回国際研究公募では57件の提案から40件が採択され、74試料、合計約229.5mgが配分されました。その後も公募は続き、2026年現在も新しい研究に試料が使われています。
わずかな量しかないからこそ、「どの分析にどの粒子を使うか」まで慎重に決められているわけです。
地球由来の汚染まで継続的にチェックされている
宇宙試料の研究では、地球由来の物質が混ざると結果の解釈を誤る可能性があります。そのため、試料だけでなく容器や洗浄工程なども管理対象です。
JAXAは2025年、リュウグウ試料の分析で検出されたエタノールについて調べた結果、輸送容器に使われるOリングの洗浄工程で吸収されたエタノールが放出され、試料に吸着した可能性が高いと公表しました。
その後、洗浄・乾燥方法を見直して揮発成分の放出を大幅に減らせることを確認しています。JAXAは当時、配布済み試料の科学的評価への影響は限定的で、研究継続に支障はないと判断しています。
これはリュウグウ試料全体の価値が失われたという話ではなく、微量成分を扱う研究だからこそ、地球由来の汚染源まで追跡していることを示す例といえます。
はやぶさ2が持ち帰った石の実物は現在見られる?

リュウグウ試料は研究用に厳重管理されていますが、一部は一般向けの展示にも使われてきました。ただし実物試料の展示場所は固定とは限らず、期間限定の巡回展示になることが多いため注意が必要です。
実物のリュウグウ粒子が全国で展示された実績がある
JAXAは、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの実物試料を一般向けに公開してきました。イトカワ試料との「ダブルサンプル巡回展示」では、科学館や博物館など複数の施設を巡回しています。
2025年の大阪・関西万博の日本館でも、初代はやぶさが持ち帰ったイトカワ試料とともに、リュウグウの実物試料が展示されました。2025年にはJAXA相模原キャンパスの特別公開で、イトカワ、リュウグウ、NASAの探査機OSIRIS-RExが持ち帰ったベヌーという3種類の小惑星試料が同時公開された例もあります。
全国には精密なレプリカも配布されている
実物だけでなく、リュウグウ試料の精密レプリカも全国で見ることができます。JAXAは持ち帰った試料のうち3番目に大きい粒子をもとにレプリカを製作し、47都道府県の施設へ配布しました。
元となった試料は8.648mm、質量93.5mgで、1cmにも満たない大きさです。写真だけでは実感しにくいリュウグウ試料のサイズや形を知るには、実物大レプリカも十分参考になります。
展示される試料は研究用の5.4gすべてではない
当然ながら、帰還した約5.4g全体が展示会場へ運ばれるわけではありません。一般展示に使われるのは、ごく一部の微小な粒子です。
主要な試料は研究・将来保管用として厳重に管理されています。そのため「博物館にリュウグウの石がある」という情報を見ても、持ち帰った試料全部がそこへ移されたわけではありません。
リュウグウの石とNASAのベヌー試料を比較する研究も始まっている

現在のリュウグウ研究で特に重要になっているのが、NASAの探査機OSIRIS-RExが小惑星ベヌーから持ち帰った試料との比較です。単独の小惑星だけを見るより、共通点と違いを調べることで、始原的小惑星の成り立ちをより詳しく理解できます。
NASAからJAXAへベヌー試料も届いた
はやぶさ2のリュウグウ試料をNASAへ提供したのと同様、NASAが2023年に地球へ持ち帰ったベヌー試料の一部はJAXAへ提供されました。
JAXAでは約660mgのベヌー試料を大気に触れさせないよう専用設備で管理し、初期記載や研究を進めています。2026年に公表されたJAXAの分析では、リュウグウ試料とベヌー試料の光学的な特徴が非常によく一致していることが示されました。
似ていても同じ天体ではないため比較する意味がある
リュウグウとベヌーはどちらも炭素や水に関連する物質を含む始原的な小惑星ですが、形成後にたどった歴史まで同じとは限りません。
両方の試料を同じ装置や手法で測定すれば、「炭素質小惑星に共通する性質」と「それぞれの天体特有の性質」を切り分けやすくなります。この比較ができるようになったこと自体が、リュウグウ試料の価値をさらに高めています。
2026年度のJAXA研究公募ではリュウグウとベヌーの試料を同時に申請できる仕組みも用意されており、サンプルリターン研究は個別ミッションから比較惑星科学へ進みつつあります。
石を届けた「はやぶさ2」本体も現在宇宙で活動している

ここまで説明したのは持ち帰った石の現在ですが、「石を届けた後、はやぶさ2自体はどうなったのか」と気になる人もいるでしょう。実は、はやぶさ2本体も失われておらず、2026年現在も運用が続いています。
帰還したのは探査機本体ではなくカプセル
2020年12月6日に地球へ戻ってきたのは、リュウグウ試料を入れた再突入カプセルです。はやぶさ2本体は地球大気へ突入せず、カプセルを分離したあと再び宇宙へ向かいました。
残っていた燃料や正常に作動する機器を活用して、「はやぶさ2♯」と呼ばれる拡張ミッションが始まっています。
2026年7月には小惑星トリフネの超近接フライバイに成功
2026年7月5日、はやぶさ2は小惑星トリフネへのフライバイ探査に成功しました。JAXAによると、探査機はトリフネの中心から約744m、表面から約400mまで接近し、秒速約5.3kmで通過しました。
光学航法カメラなど4種類の科学観測機器でデータ取得に成功し、小惑星フライバイとして世界で初めてレーザー高度計による測距にも成功しています。
撮影結果から、トリフネは2つの天体が接触したような「コンタクトバイナリー」と呼ばれる形をしており、長軸約840m、短軸約340mと推定されています。
現在は2031年の1998 KY26到着を目指している
トリフネのフライバイを終えたはやぶさ2は、2026年7月9日から再びイオンエンジンの運転を開始しました。
今後は2027年12月と2028年に地球への接近を利用したスイングバイなどを経て、2031年に小惑星「1998 KY26」へ到着する計画です。
1998 KY26は直径約11mしかなく、自転周期が約5分という非常に小さく高速回転する天体です。リュウグウとは条件が大きく異なるため、新しい小惑星探査技術や科学的知見が期待されています。
リュウグウの石は地球で研究を続け、はやぶさ2本体は宇宙で次の探査を続けています。サンプルリターン成功でミッションのすべてが終了したわけではありません。
はやぶさ2が持ち帰った石の現在をまとめると、保管しながら研究が続いている
はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの石や砂は、2020年の帰還後に使い切られたわけではありません。約5.4gの試料はJAXAの地球外試料キュレーションセンターを中心に厳重に管理され、一部がNASAや国内外の研究者へ配分されています。
分析によって、リュウグウが非常に始原的な炭素質の物質からできていることや、アミノ酸を含む多種類の有機物、ウラシル、ナイアシン、水と反応した鉱物、液体の水を閉じ込めた微小構造、塩の結晶などが次々と確認されてきました。
現在のリュウグウ試料は「研究済みの過去の石」ではなく、将来分を保存しながら2026年も新しい研究に使われ続けている貴重な科学試料です。
さらに、NASAが持ち帰ったベヌー試料との比較研究も始まり、リュウグウの石から得られる科学的価値はむしろ広がっています。一方、はやぶさ2本体も2026年7月のトリフネ探査を成功させ、現在は2031年の小惑星1998 KY26到着を目指して宇宙を飛び続けています。



