ロケットの速度は「マッハいくつなのか」と気になる人は多いでしょう。結論からいうと、人工衛星を地球周回軌道に乗せるための秒速約7.9kmを地上付近の音速で換算すると、約マッハ23です。さらに、地球から脱出する速度の目安である秒速11.2kmは、単純換算で約マッハ33に相当します。
ただし、ロケットが最初からマッハ23で飛ぶわけではありません。打ち上げ後に少しずつ加速し、マッハ1、マッハ5と速度を上げながら宇宙へ向かいます。また、マッハ数は空気中の音速を基準にした値なので、ほぼ真空の宇宙空間では扱い方にも注意が必要です。ロケットの速度を秒速・時速・マッハの違いから整理します。
ロケットの速度はマッハいくつ?軌道投入なら約マッハ23が目安

「ロケットは何マッハで飛ぶのか」という疑問に対して、もっとも分かりやすい答えは地球周回軌道へ入るときの速度を地上の音速で換算すると約マッハ23です。ただし、ロケットの速度は飛行中ずっと一定ではなく、目的とする軌道によっても異なります。
人工衛星を軌道に乗せるには秒速約7.9kmが目安
JAXAは、人工衛星を地球の周りを回る軌道に乗せるために必要な速度の目安を秒速7.9km、時速では約28,000kmと説明しています。これは「第一宇宙速度」と呼ばれる値です。
秒速7.9kmを地上付近の音速である秒速約0.34kmで割ると、約23.2になります。そのため、日常的な感覚で表現するなら「人工衛星を打ち上げるロケットは最終的にマッハ23程度の速度になる」と考えるとスケールをつかみやすいでしょう。
JAXA 第一宇宙技術部門でも、第一宇宙速度をおよそ秒速7.9kmとしています。
| 速度の目安 | 秒速 | 時速 | 地上音速での換算 |
|---|---|---|---|
| マッハ1 | 約0.34km/s | 約1,220km/h | マッハ1 |
| ISS付近の速度 | 約7.7km/s | 約28,000km/h | 約マッハ23相当 |
| 第一宇宙速度 | 約7.9km/s | 約28,400km/h | 約マッハ23 |
| 地球の脱出速度 | 約11.2km/s | 約40,300km/h | 約マッハ33 |
ロケットは打ち上げ直後からマッハ23ではない
ここで注意したいのは、ロケットが発射台を離れた瞬間からマッハ23で飛ぶわけではないことです。静止状態から上昇を始め、大気中を飛びながら徐々に加速します。途中で音速を突破してマッハ1を超え、その後はマッハ数を大きくしながら高度を上げていきます。
NASAのロケット教育資料では、宇宙へ向かうロケットのマッハ数が0から最終的に25近くまで上昇する例が紹介されています。ただし、これはすべてのロケットが同じ速度変化をするという意味ではありません。機体、搭載物、目的の軌道、飛行経路によって速度は変わります。
「ロケットは何マッハ?」には1つの固定した答えがない
自動車なら「最高速度300km/h」のように1つの数字で表現しやすいのですが、宇宙ロケットの場合はそう単純ではありません。低い地球周回軌道に衛星を送る場合と、静止衛星を送る場合、月や惑星へ探査機を送る場合では必要な速度や軌道が異なるためです。
一般的な人工衛星打ち上げの速度感を知りたいなら「約マッハ23相当」と覚えるのが分かりやすいでしょう。より正確に説明する場合は「地球周回に必要な秒速7.9kmを、地上の音速で便宜的に換算した値」と条件を付ける必要があります。
マッハとは何か?ロケットの秒速とは意味が違う

マッハは速度そのものの単位だと思われがちですが、厳密には「その場所の音速に対して何倍の速度で動いているか」を表す数値です。この性質を知ると、宇宙ロケットを単純に「マッハ23」と呼ぶことに注意が必要な理由も分かります。
マッハ1は音速と同じ速さ
マッハ数は、物体の速度をその場所における音速で割って求めます。マッハ1なら音速と同じ速度、マッハ2なら音速の2倍、マッハ5なら音速の5倍です。
地上付近では音速をおよそ秒速340m、時速約1,220kmとして考えることができます。この条件なら、マッハ5は秒速約1.7km、マッハ10は秒速約3.4km、マッハ20なら秒速約6.8kmです。
NASAのGlenn Research Centerでも、マッハ数は物体の速度と音速の比として説明されています。
| マッハ数 | 秒速の目安 | 時速の目安 |
|---|---|---|
| マッハ1 | 約0.34km/s | 約1,220km/h |
| マッハ5 | 約1.7km/s | 約6,100km/h |
| マッハ10 | 約3.4km/s | 約12,200km/h |
| マッハ20 | 約6.8km/s | 約24,500km/h |
| マッハ23 | 約7.8km/s | 約28,100km/h |
同じ速度でも高度によってマッハ数は変わる
マッハ1を常に時速1,220kmと考えるのは正確ではありません。音速は空気の温度や気体の種類によって変化し、地球の大気では高度によって温度も変化するからです。
たとえば同じ秒速1kmで飛行していても、周囲の音速が秒速340mなら約マッハ2.9、音速が秒速300mなら約マッハ3.3になります。つまり、物体そのものの速度が変わっていなくても、その場所の音速が変化すればマッハ数は変わります。
そのため、ロケットの飛行状態を技術的に表す場合は、単純に「秒速○kmだからマッハ○」と固定するのではなく、その高度や大気条件を考慮します。
宇宙空間では「マッハ23」と呼ぶのは厳密ではない
マッハ数は、気体の中を進む物体と、その気体を伝わる音の速度との関係を示すものです。ところが、地球周回軌道まで上がると大気は極めて薄くなります。一般的な意味で地上と同じように音が伝わる環境ではありません。
そのため、軌道上を秒速7.7kmで飛ぶISSについて「マッハ22~23で飛んでいる」と表現することは、地上の音速と比較してイメージするには便利ですが、実際の宇宙飛行では秒速や時速、軌道速度として表現するほうが適切です。
ロケットは打ち上げから宇宙までどのように速度を上げる?

ロケットは燃料を一気に使って最高速度まで加速するのではなく、数分から十数分をかけて速度と高度を増していきます。さらに、単純に真上へ飛び続けるのではなく、地球を周回できるよう横方向の速度を大きくしていくことが重要です。
発射後はまず音速を突破する
ロケットは発射台から上昇を始めると、エンジンや固体ロケットブースターなどの推力によって加速します。やがてマッハ1付近の遷音速領域を通過し、超音速飛行へ移ります。
マッハ1付近では空気の圧縮による影響や衝撃波が大きくなるため、ロケットにとって大気中の飛行は単純な加速競争ではありません。機体にかかる空気抵抗や圧力を考慮しながら飛行する必要があります。
マッハ5を超える領域は一般に「極超音速」と呼ばれます。JAXAの観測ロケットS-520-RD1を使った飛行試験でも、降下する試験体が最大マッハ約5.8に達したことが公表されています。
高度が上がるほど空気抵抗は小さくなる
ロケットが高速化すると空気抵抗が増えますが、同時に上昇によって大気は薄くなっていきます。そのため、飛行中に機体へかかる空力的な負荷が最大になるポイントがあります。ロケットの中継で耳にすることがある「Max Q(最大動圧)」は、このような空気による負荷が特に大きくなる領域を指します。
十分に高度が上がって大気が薄くなれば、地上付近のような大きな空気抵抗はなくなります。そこでロケットはさらに速度を高め、人工衛星を目的の軌道へ投入するために必要な横方向の速度を獲得していきます。
宇宙へ行くだけならマッハ23は必要ない
意外に見落とされやすいのが、「宇宙まで上がること」と「地球を周回すること」は別だという点です。高度100kmを超えるような宇宙空間へ一時的に到達するだけなら、必ずしも秒速7.9kmまで加速する必要はありません。
しかし、そのままエンジンを止めれば重力によって地球へ落下します。人工衛星として地球の周りを回り続けるには、単に高度を上げるだけではなく、非常に大きな横方向の速度が必要です。
第一宇宙速度と第二宇宙速度をマッハにするとどうなる?

ロケットの速さを調べていると、「第一宇宙速度」「第二宇宙速度」という言葉がよく登場します。どちらも宇宙飛行を理解するうえで便利な目安ですが、意味は異なります。
第一宇宙速度は秒速約7.9kmで約マッハ23相当
第一宇宙速度は、地表付近で物体が地球の周りを円軌道で回るために必要となる理論上の速度で、秒速約7.9kmです。時速に直すと約28,400kmになります。
地球が丸いため、十分な横方向の速度を持った物体は重力によって落下し続けても、地面そのものが同じように下へ曲がっていきます。その結果、地表へ衝突せず地球を回り続ける軌道になります。
実際の低軌道では高度があるため、軌道速度は条件によって少し異なります。したがって「人工衛星はすべて秒速7.9km」という意味ではなく、第一宇宙速度は速度感を理解する代表的な基準と考えるとよいでしょう。
ISSは秒速約7.7kmで地球を約90分で1周する
身近な実例が国際宇宙ステーション(ISS)です。JAXAによるとISSは地上約400kmを秒速約7.7km、時速約28,000kmで飛行し、地球を約90分で1周しています。
秒速7.7kmを地上付近の音速で換算すると約マッハ22.6です。つまり、「人工衛星や宇宙ステーションが地球を回る速度はマッハ20を大きく超える」という感覚自体は間違っていません。
ただし、ISSが存在する高度では地上とは大気環境がまったく異なるため、通常は「ISSはマッハ23で飛んでいる」とは表現せず、秒速7.7kmや時速28,000kmと表します。ISSの速度についてはJAXA 有人宇宙技術部門でも確認できます。
第二宇宙速度は秒速約11.2kmで約マッハ33相当
第二宇宙速度は、地表付近から地球の重力を振り切って無限遠まで到達するために必要となる理論上の脱出速度で、約11.2km/sです。地上の音速で単純換算すると約マッハ33になります。
ただし、「月へ行くロケットは地上から一気に秒速11.2kmまで加速しなければならない」という意味ではありません。現実の宇宙ミッションでは、ロケットエンジンが時間をかけて推力を与え、いったん地球周回軌道へ入ってから再び加速する方法などが使われます。
第一宇宙速度は「地球を回り続けるための速度」の代表値、第二宇宙速度は「地球から脱出するための理論上の速度」の代表値と考えると区別しやすくなります。
実際のロケットはどれくらいの速度で飛んでいる?

第一宇宙速度は理論上の基準ですが、実際のロケットの飛行計画を見ると、本当に秒速数kmという速度まで加速していることが分かります。目的の軌道によって最終的な速度が違う点にも注目すると、ロケットに「共通の最高速度」がないことを理解できます。
H-IIAでは軌道投入時に秒速7.5km程度になる例がある
JAXAが公開しているH-IIAロケット15号機の飛行計画では、打ち上げから約1分56秒後に高度47kmで慣性速度約1.6km/s、約4分30秒後には高度147kmで約2.0km/sとなっています。
その後、第2段エンジンによる加速を続け、打ち上げ約15分後には高度約671km、慣性速度約7.5km/sに到達する計画でした。地上の音速を基準に比較すれば、7.5km/sは約マッハ22に相当する速度です。
この数字を見ると、ロケットは発射直後から猛烈な最高速度で飛ぶのではなく、数分以上をかけて秒速数kmまで加速していくことが分かります。
目的の軌道によって秒速10kmを超える場合もある
別のH-IIAの飛行計画では、第2段エンジンの追加燃焼後に慣性速度約10.2km/sとなる例も公開されています。秒速10.2kmを地上の音速だけで換算すれば約マッハ30に相当します。
この違いが生じるのは、人工衛星をどのような軌道へ送り込むかによって必要な速度が変わるためです。低軌道、太陽同期軌道、静止トランスファー軌道など、目的に応じて飛行経路やロケットの燃焼方法が設計されます。
「ロケットの最高速度はマッハ23」と固定して覚えるのではなく、地球低軌道へ入る速度の代表値がマッハ23相当と理解するほうが正確です。
発射地点で表示される速度と軌道上の速度は基準にも注意する
ロケットの資料では「対地速度」「慣性速度」など異なる基準の速度が使われることがあります。たとえば地球そのものが自転しているため、地上で静止しているロケットでも、宇宙空間を基準とする慣性系では速度を持っています。
JAXAのH-IIA飛行計画でリフトオフ時の慣性速度が約0.4km/sと記載されている例があるのもこのためです。発射台に置かれたロケットが地面に対して時速1,000km以上で移動しているという意味ではありません。
ロケットはなぜマッハ20を超えるほど速くなる必要がある?

ロケットが秒速7~8kmもの速度を必要とする最大の理由は、宇宙が遠いからではありません。地球の重力に引かれながら人工衛星として周回し続けるためです。この点を理解すると、ロケットが巨大な燃料タンクを必要とする理由も見えてきます。
高度よりも横方向の速度を得ることが難しい
「宇宙は地上から約100km上だから、100km上昇すれば人工衛星になれる」と思うかもしれません。しかし、高度100kmまで真上に上がっただけでは、エンジンを止めると再び地上へ落下します。
人工衛星になるには、高度だけではなく横方向に十分な速度を得る必要があります。低い地球周回軌道では秒速7~8kmという高速で移動することで、重力によって地球へ落ちながらも地面に衝突せず、そのまま地球の周囲を回り続けられます。
ロケットの映像を見ると、打ち上げ後に飛行経路が徐々に横向きへ傾いていきます。これは単に宇宙まで上昇するだけでなく、軌道投入に必要な横方向の速度を稼ぐためです。
時速にすると約28,000kmという桁違いの速度
秒速7.9kmは、1秒間に約7.9km進む速度です。東京駅から品川駅までの直線距離に近い距離を、ほぼ1秒で進むほどのスピードになります。時速では約28,400kmです。
仮にこの速度のまま地球上を直線的に移動できると考えれば、東京から大阪までの約500kmも1分程度で進める計算になります。実際には人工衛星は宇宙の軌道上を飛んでおり、地上をこの速度で移動する乗り物とは条件がまったく異なりますが、速度の大きさをイメージする目安にはなります。
速ければ速いほど良いわけではない
ロケットは最高速度を競う乗り物ではありません。重要なのは、人工衛星や宇宙船を決められた時刻に、決められた位置と方向、決められた速度で送り出すことです。
速度が不足すれば予定した軌道へ入れませんが、逆に速すぎても別の軌道になってしまいます。必要なのは「できるだけ速く飛ぶこと」ではなく、「目的の軌道に必要な速度を正確に作り出すこと」です。
そのため、ロケットの性能を比較する場合も単純な最高速度だけで判断するのは適切ではありません。どの軌道へ何トンの人工衛星を運べるのかという打ち上げ能力や、軌道投入の精度なども重要になります。
ロケットの速度を飛行機や新幹線と比べるとどれくらい速い?

秒速7.9kmと言われても日常生活では使わない単位なので、速さを想像しにくいかもしれません。身近な高速交通機関や超音速領域と比べると、地球周回に必要な速度がどれほど大きいのか分かります。
| 比較対象 | 速度の目安 | 軌道速度との違い |
|---|---|---|
| 新幹線 | 時速300km前後 | ロケットの軌道速度は約90倍 |
| 音速 | 時速約1,220km | 軌道速度は約23倍 |
| マッハ5 | 時速約6,100km | 軌道速度はさらに約4.6倍 |
| ISS | 時速約28,000km | 低軌道を周回する代表例 |
| 第一宇宙速度 | 時速約28,400km | 約マッハ23相当 |
マッハ5でも軌道速度には足りない
マッハ5以上は「極超音速」と呼ばれる非常に高速な領域です。それでも地上の音速を基準としたマッハ5は秒速約1.7kmであり、第一宇宙速度の秒速7.9kmには大きく届きません。
マッハ10でも単純換算では秒速約3.4kmです。これでも第一宇宙速度の半分以下になります。ロケットが人工衛星を地球周回軌道へ運ぶためには、航空機の感覚から見るとさらに桁違いの運動エネルギーを与える必要があります。
「宇宙ロケット=マッハ○○」だけでは性能比較できない
戦闘機などでは最高速度としてマッハ数が紹介されることがありますが、宇宙ロケットでは「最大マッハ数」だけで機体の能力を比較することはほとんどできません。
ロケットは途中で段を切り離し、複数のエンジンを異なる時間に燃焼させます。さらに目的の軌道もミッションごとに異なります。そのため、低軌道への打ち上げ能力が何トンあるのか、静止トランスファー軌道へ何トン運べるのかといった指標のほうが実用的です。
「マッハ23」は速さをイメージするための便利な数字
ここまでの違いを踏まえると、「ロケットはマッハ23」という表現は間違いというより、使い方に条件がある数字だと分かります。
人工衛星が地球周回軌道へ入る秒速約7.9kmを、私たちになじみのある音速と比較する目的なら約マッハ23という表現は非常に分かりやすいものです。一方、実際のロケットの飛行状態を正確に表す場合は、高度や音速、速度の基準、目的の軌道まで確認する必要があります。
ロケットの速度は軌道投入で約マッハ23相当と覚えよう
ロケットの速度は飛行中に変化するため、「常に何マッハ」と1つの数字で決めることはできません。ただし、人工衛星を地球周回軌道に乗せるための代表的な速度である秒速約7.9kmを地上付近の音速で換算すると、約マッハ23になります。
ISSも高度約400kmを秒速約7.7km、時速約28,000kmで周回しており、地上音速との単純比較では約マッハ23相当です。さらに、地球から脱出する第二宇宙速度の秒速約11.2kmは約マッハ33に相当します。
ただし、マッハは周囲の気体における音速との比です。音速は高度や温度によって変わり、ほぼ真空となる宇宙では地上と同じ意味でマッハ数を使えません。そのため、「ロケットの速度はマッハいくつ?」という疑問には、地球周回なら約マッハ23相当、実際の宇宙空間では秒速7~8kmと表すほうが正確と理解しておくのがよいでしょう。



