宇宙飛行士を目指すなら、「英語力はどれくらい必要なのか」「TOEICなら何点あればいいのか」と気になる人も多いでしょう。国際宇宙ステーション(ISS)などでは海外の宇宙飛行士や地上管制チームと連携するため、英語は重要な仕事道具になります。
ただし、JAXAの直近の宇宙飛行士候補者募集では、TOEIC○点以上といった明確な合格基準は設定されていません。必要なのは試験で高得点を取るだけの英語ではなく、専門的な内容を理解し、自分の考えを正確に伝えられる実践的なコミュニケーション力です。この記事では、JAXAの選抜内容や訓練をもとに、目指したい英語力の目安を整理します。
宇宙飛行士の英語力はどれくらい必要?結論は「英語で仕事ができるレベル」

宇宙飛行士に求められる英語力を一言で表すなら、日常会話ができるだけではなく、英語を使って専門的な仕事を安全かつ正確に進められるレベルです。
ネイティブのような発音や、難しい単語を大量に知っていることが最優先ではありません。それよりも、相手の指示を正確に理解し、自分の状況や判断を簡潔に説明し、必要なら聞き返して認識を合わせる能力が重要になります。
JAXAは具体的なTOEIC合格ラインを公表していない
JAXAが実施した2021年度宇宙飛行士候補者募集では、応募資格として「TOEIC○点以上」「英検○級以上」といった最低スコアは設定されていませんでした。応募資格の中心は実務経験や医学的な条件などで、英語力については選抜試験の中で評価する方式です。
そのため、「TOEICで730点あれば宇宙飛行士になれる」「900点なら英語試験は問題ない」といった単純な合格ラインはありません。今後の募集についても選抜方法が同じとは限らないため、応募時には必ず最新のJAXA宇宙飛行士候補者募集特設サイトを確認する必要があります。
必要なのは読む・聞く・話す・書くを組み合わせた英語力
一般的な資格試験では、リーディングやリスニングを中心に測るものもあります。しかし宇宙飛行士は、英語のマニュアルや技術情報を理解するだけでは仕事になりません。
訓練担当者の説明を聞き、疑問点を質問し、チームメンバーと意見を調整し、自分の考えを説明する必要があります。緊急時には状況を短時間で正確に伝えることも求められます。つまり、インプットとアウトプットの両方を高い水準で使えることが重要です。
最初から完璧な英語である必要はない
高い英語力は必要ですが、宇宙飛行士候補者になった時点ですべての語学能力が完成していなければならない、という意味ではありません。JAXAでは候補者になった後の基礎訓練にも語学訓練が含まれています。
JAXAの宇宙飛行士に関する公式情報でも、候補者の基礎訓練として英語やロシア語の語学訓練を行うことが説明されています。重要なのは、選抜を通過できるだけの土台があり、その後も必要な能力を伸ばし続けられることです。
JAXAの宇宙飛行士選抜では英語をどのように評価する?

宇宙飛行士に必要な英語力を理解するうえで参考になるのが、2022~2023年に行われたJAXAの宇宙飛行士候補者選抜です。この選抜では英語が一度だけ試されるのではなく、複数の段階で評価されました。
第0次選抜の最初に英語試験が実施された
2021年度募集では、書類選抜を通過した2,266人に対して第0次選抜が行われました。JAXAの選抜レポートによると、最初に英語試験を実施し、一定の英語能力を保有しているかを評価しています。
英語試験を通過したのは1,407人で、その後に一般教養試験、STEM分野の試験、小論文、適性検査などが行われました。単純計算すると、書類選抜通過者のうち英語試験を通過した割合は約62%です。
もちろん、この数字だけで試験の難易度を判断することはできません。しかし、英語が宇宙飛行士選抜の早い段階で確認される重要な能力であることはわかります。
後半では英語面接まで行われた
第0次選抜の英語試験を通過すれば、それで英語力の審査が終了するわけではありません。第二次選抜では「面接試験(英語、資質特性、プレゼンテーション)」が行われました。
JAXAが公開した選抜FAQでは、英語面接について英語を母国語とする試験官が評価すると説明されています。暗記した英文を再生するだけではなく、質問を聞き取り、その場で考えて答える力が必要になると考えたほうがよいでしょう。
第三次選抜では英語プレゼンテーションも実施された
さらに第三次選抜でも英語面接やプレゼンテーションが実施されています。JAXAの選抜レポートによると、英語プレゼンテーションでは「月面に初めて降り立った宇宙飛行士が記者会見に臨む」という設定の試験も行われました。
ここからわかるのは、宇宙飛行士の英語力が単なる語彙・文法の知識ではないということです。自分が経験したことや考えたことを整理し、英語で相手にわかる形にして伝える表現力まで評価対象になります。
| 求められる能力 | 宇宙飛行士で必要になる場面 |
|---|---|
| リスニング | 訓練、管制官からの指示、チーム内の会話 |
| スピーキング | 報告、相談、質疑応答、緊急時の意思疎通 |
| リーディング | マニュアル、手順書、技術資料の理解 |
| ライティング | 情報共有や文書によるコミュニケーション |
| プレゼンテーション | 任務内容や経験をわかりやすく伝える |
宇宙飛行士はなぜそれほど高い英語力が必要なのか

宇宙飛行士が英語を学ぶ目的は、海外で日常生活を送るためだけではありません。宇宙飛行そのものが国際的な共同プロジェクトであり、英語での意思疎通がミッションの遂行に直接関係するからです。
多国籍のメンバーと共同で任務を行うため
ISSでは、日本だけでなく米国、欧州、カナダなどさまざまな国・地域の宇宙飛行士やスタッフが活動します。JAXAも、各国の宇宙飛行士とチームを組んで共同生活や共同作業を行うため、コミュニケーション手段として英語力が必要だと説明しています。
重要なのは雑談ができることだけではありません。「自分はこう判断した」「ここが通常と違う」「この手順で問題ないか」など、仕事に必要な内容を誤解なくやり取りする必要があります。
安全に関わる情報を正確に理解する必要がある
地上での旅行英会話なら、単語や身振りで何とか意味が伝われば済む場面もあります。しかし宇宙船やISSを扱う仕事では、「だいたい意味がわかった」では済まないケースがあります。
機器の操作方法、異常の内容、手順を開始する条件などを取り違えれば、作業そのものに影響します。そのため宇宙飛行士に必要なのは、きれいな発音以上に重要な情報を正確に聞き取り、不明点を確認できる能力です。
専門知識そのものを英語で扱う必要がある
宇宙飛行士が扱う内容には、宇宙機のシステム、ロボットアーム、宇宙科学、医学、実験装置など高度な専門分野が含まれます。英会話教室でよく扱われる日常的なテーマだけを話せても十分ではありません。
たとえば日本語なら理解できる技術説明でも、それを英語で説明された瞬間に理解できなくなれば訓練についていくのが難しくなります。専門知識と英語を別々に学ぶ段階から、「専門的なことを英語で理解する」段階へ進む必要があります。
TOEICや英検ならどのくらいを目指せばいい?

宇宙飛行士を目指して英語を勉強する場合、具体的な目標がないと学習しにくいため、TOEICや英検のレベルが気になるでしょう。ただし、ここでは「JAXA公式の合格ライン」と「学習上の目安」を分けて考える必要があります。
TOEIC730点は宇宙飛行士の合格基準ではない
インターネット上では「宇宙飛行士にはTOEIC730点程度必要」という情報を目にすることがあります。しかし、少なくとも2021年度JAXA宇宙飛行士候補者募集では、TOEIC730点を応募条件や合格基準として設定していません。
一方、宇宙飛行士の訓練や「きぼう」の運用に関わる有人宇宙システム株式会社(JAMSS)の一部求人では、「TOEIC730程度」「英語でのコミュニケーションに自信のある方」という条件が示されています。
宇宙関連業務で求められる英語の一つの参考にはなりますが、「TOEIC730点=宇宙飛行士に必要な英語力」と置き換えるのは正確ではありません。
目標を置くならTOEIC800~900点台も視野に入れたい
JAXAが公式に指定している数字ではありませんが、宇宙飛行士を本気で目指す人の学習目標として考えるなら、TOEIC L&Rで800点台以上、さらに900点前後を狙える力まで高めておくことには意味があります。
理由は、宇宙飛行士が英語そのものを勉強することを最終目的としているのではなく、その英語を使って大量の専門知識を学ばなければならないからです。基礎的な単語や文法の処理に毎回時間を取られている状態では、技術内容の理解に集中しにくくなります。
ただし、TOEIC L&Rで高得点を取っても、会話やプレゼンテーションが苦手なら十分とはいえません。900点を取った後も、スピーキングをほとんど練習していなければ宇宙飛行士選抜への対策としては偏っています。
英検なら準1級~1級は有力な学習目標になる
英検についてもJAXAが現在「1級必須」と定めているわけではありません。そのため、「宇宙飛行士は必ず英検1級が必要」と断定するのは適切ではありません。
一方で、長めの英文を理解し、自分の意見を論理的に述べる力を鍛える目的では、準1級から1級レベルの学習は役立ちます。特に面接形式で自分の意見を説明する練習は、単語や文法問題だけを解く学習より宇宙飛行士に必要な能力へつながりやすいでしょう。
資格の目標を置くなら、TOEIC L&Rの高得点だけで終了せず、英語で質問に答える、専門テーマを説明する、プレゼンする練習までセットにすることが重要です。
英語だけできれば宇宙飛行士になれるわけではない

英語は重要ですが、宇宙飛行士選抜は語学試験ではありません。実際のJAXA選抜では、英語以外にも医学検査、STEM分野の能力、適性、プレゼンテーション、チームワーク、状況認識能力など幅広い要素が確認されています。
コミュニケーション力は英語力より広い能力
英語の語彙力が高くても、一方的に話して他人の意見を聞けない人が多国籍チームで活躍できるとは限りません。反対に、文法上の小さなミスがあっても、必要な情報を簡潔に共有し、相手の意見を確認しながら協力できる人は仕事上のコミュニケーションを成立させやすくなります。
宇宙飛行士を目指すなら、「流暢に話す」ことだけをゴールにせず、相手が何を必要としているか考え、わかりやすく伝える能力まで意識したほうがよいでしょう。
専門性や問題解決能力も同時に伸ばす必要がある
JAXAの2021年度募集では、それ以前にあった自然科学系大学卒業という学歴要件がなくなりました。しかし、選抜ではSTEM分野の知識や運用技量なども評価されています。
つまり、「英語が得意だから有利」というだけでは足りません。自分の仕事や専門分野で経験を積み、難しい問題を考え、チームで解決してきた力も重要です。その専門性を英語で説明できるようにしておくことが、宇宙飛行士を目指すうえでは効率的です。
ロシア語など英語以外の語学訓練もある
宇宙飛行士というと英語だけに注目しがちですが、JAXAの候補者訓練にはロシア語も含まれています。JAXAの公式情報では、候補者として選抜された後に英語・ロシア語を習得するとされています。
ただし、日本人が宇宙飛行士を目指す段階で「英語もロシア語も完璧になってから応募しなければならない」と考える必要はありません。現在の選抜実績を見る限り、まず優先すべきなのは、国際的なチームで意思疎通できる英語力を十分に高めることです。
宇宙飛行士を目指す人におすすめの英語勉強法

宇宙飛行士レベルの英語力は短期間で身につくものではありません。学生のうちから目指す場合も、社会人になってから挑戦を考える場合も、「試験の点数を上げる勉強」と「英語を仕事で使う訓練」を段階的に組み合わせるのが現実的です。
まず基礎力を資格試験で確認する
英語がまだ苦手なら、最初から宇宙工学の専門書を英語で読む必要はありません。中学・高校レベルの文法と語彙を固め、TOEICや英検などを利用して、自分の弱点を客観的に確認するところから始めるとよいでしょう。
リスニングが弱い、英文を読む速度が遅い、語彙が少ないなどの課題が見つかれば、まずそこを改善します。資格試験は宇宙飛行士になるための最終目的ではありませんが、基礎体力を測る道具としては便利です。
「英語を話す時間」を意識的に増やす
日本国内で勉強していると、リーディングや単語暗記に学習時間が偏りやすくなります。しかしJAXAの過去の選抜では英語面接や英語プレゼンテーションまで実施されているため、スピーキングを後回しにするのはおすすめできません。
オンライン英会話などを利用する場合も、日常会話だけで終わらせず、「自分の仕事を3分で説明する」「ある問題について賛成・反対を述べる」「質問された内容に理由を付けて答える」といった練習をすると実践的です。
専門分野を英語で説明する練習をする
ある程度英語に慣れたら、自分の専門分野と英語学習を組み合わせます。たとえばエンジニアなら担当している技術、医療従事者なら自分の専門領域、研究者なら研究テーマについて、専門外の人にもわかる英語で説明してみます。
専門用語を暗記するだけでなく、「これは何のための技術なのか」「問題が起きたらどうするのか」「なぜこの方法を選ぶのか」まで英語で説明できるようにすると、実際の仕事に近いコミュニケーション力を鍛えられます。
聞き返し・確認・要約の表現を身につける
高い英語力を目指す人ほど、「聞き返したら英語ができないと思われる」と考えてしまうことがあります。しかし、正確さが重要な仕事では、わからないまま進めるより確認するほうが合理的です。
相手の説明を自分の言葉で言い換えて確認する、重要な数字や条件を繰り返す、理解できなかった部分だけ聞き返すといった練習をしておくと、単純な英会話力とは異なる実務的な力が身につきます。
宇宙飛行士の英語力は点数より「使えるか」で考えよう
宇宙飛行士に必要な英語力について、JAXAは現在「TOEIC○点以上」「英検○級以上」という一律の合格ラインを示していません。2021年度募集の選抜では、第0次選抜で英語試験があり、その後も英語面接や英語プレゼンテーションが行われました。
したがって、宇宙飛行士を本気で目指すなら、TOEIC730点程度を最終目標にするより、800~900点台も狙える基礎力を身につけ、そのうえで英語による会話・説明・質疑応答・プレゼンテーションを鍛えるほうが実践的です。ただし、この点数はJAXA公式の合格基準ではなく、あくまで学習目標としての目安です。
最終的な目標は「英語が得意になること」ではなく、「英語を使って専門的な任務を正確に遂行できること」です。宇宙飛行士を目指しているなら、資格試験のスコアを現在地の確認に利用しながら、自分の専門分野について英語で考え、聞き、説明できる力まで伸ばしていくことが重要です。



