LUPEX(ルペックス)は何がすごいのか、名前だけを聞いてもイメージしにくいかもしれません。LUPEXは日本のJAXAとインドのISROが協力して進める月極域探査ミッションで、月の南極付近をローバーで走りながら「水」を詳しく調べる計画です。
ポイントは、単に「月に水があるか」を確認するだけではないことです。水がどこに、どれくらい、どのような状態で存在するのかを現地で測り、将来の月面活動に使える資源なのかまで判断しようとしています。この記事では、LUPEXの何がすごいのかを専門知識がなくてもわかるように解説します。
LUPEXは何がすごい?わかりやすく言うと「月の水が使えるか」を現地で確かめる探査

LUPEXのすごさを一言で表すなら、月に水が「ありそう」と知る段階から、「実際にどこにどれだけあり、資源として使えそうか」を確かめる段階へ進むことです。
これまでの月探査によって、月の極域には水の氷が存在することがわかってきました。しかし、人間が将来利用することを考えると、「水がある」という情報だけでは足りません。LUPEXはローバーを使って月面を移動し、複数地点を調べることで、この不足している情報を集めようとしています。
「水がある」だけでは資源として使えるかわからない
月の水については、これまで月周回探査機などによる観測から多くの手掛かりが得られてきました。NASAも、月の極域にある永久影と呼ばれる太陽光がほとんど届かない場所などで、水の氷が確認されていると説明しています。
ただし、遠くから観測して水の存在を確認することと、将来利用できる水資源として評価することは別問題です。大量の氷がまとまっているのか、月の砂にわずかに混ざっているだけなのかによって、取り出しやすさは大きく変わります。
そこでLUPEXでは、水の「量」だけではなく、分布や状態などを現地で調べます。資源として考えるなら、存在の有無よりも、どこを掘ればどの程度得られるのかを知ることが重要だからです。
ローバーで移動しながら複数の場所を調べる
LUPEXでは、着陸地点にとどまったまま観測するのではなく、探査車であるローバーが月面を走ります。温度や日照、地質などが異なる場所へ移動しながら観測することで、水がどのような場所に集まりやすいのかを比較できます。
水資源は月の南極全体に均等に存在しているとは限りません。ある地点では比較的多く、少し離れただけで少なくなる可能性もあります。そのため、複数地点を直接調べられる移動能力には大きな意味があります。
地球で鉱物資源を探す場合にも、一地点だけを調べて地域全体を判断することはできません。LUPEXも同じように、「走って探す」ことで月の水資源をより現実的に評価しようとしているわけです。
地下約1.5mまで掘ってサンプルを分析する
さらに特徴的なのが掘削です。JAXAの計画では、LUPEXのローバーには約1.5mまで掘削できる装置が搭載され、月の表面を覆うレゴリスと呼ばれる砂や細かな岩石を採取します。
表面だけを眺めるのではなく、地下にある試料を取り出して分析できるため、水がどの深さに存在するかを調べられます。採取した試料を加熱して重量変化を測ったり、発生したガスの成分を調べたりすることで、水などの揮発性物質を詳しく分析する計画です。
「走る・掘る・その場で分析する」を1台のローバーで行うことが、LUPEXの大きな特徴です。
そもそもLUPEXとは?日本とインドが進める月南極探査ミッション

LUPEXは「Lunar Polar Exploration」の略で、日本語では月極域探査機と呼ばれます。月の南極域で水資源を調査するとともに、将来の月面活動に必要になる移動・掘削・越夜などの技術を実証することが目的です。
JAXAのLUPEX公式ページでは、2028年度にH3ロケットで打ち上げる計画が示されています。宇宙開発では開発状況などによって予定が変わることがあるため、打上げ時期は今後変更される可能性があります。
日本はロケットとローバー、インドは着陸機を担当
LUPEXは日本だけで実施するミッションではありません。JAXAとインド宇宙研究機関ISROによる国際共同ミッションです。
2025年8月にはJAXAとISROがLUPEXミッションに関する実施取決めに署名しました。日本側は打上げに使うロケットと月面を走るローバーの開発・運用を担当し、インド側は月面へ降りる着陸機の開発・運用を担当します。
ISRO側ではChandrayaan-5/LUPEXとして位置付けられており、日本とインドそれぞれが持つ月探査技術を組み合わせたプロジェクトになっています。
| 項目 | LUPEXの計画 |
|---|---|
| 正式名称 | Lunar Polar Exploration(LUPEX) |
| 主な目的 | 月南極域の水資源調査、月面探査技術の獲得 |
| 主な参加機関 | JAXA、ISRO |
| 日本の担当 | ロケット、ローバーの開発・運用 |
| インドの担当 | 着陸機の開発・運用 |
| 打上げロケット | H3ロケット |
| 打上げ年度 | 2028年度予定 |
| 着陸地点 | 月の南極域 |
| ローバー質量 | 約350kg(観測機器を含む) |
| ローバーの大きさ | 約2.0m×1.8m×3.3m |
| ミッション期間 | 着陸後約3.5か月、最長1年を想定 |
日本・インドだけではなくNASAやESAの観測機器も参加する
LUPEXの国際性は、日本とインドによる探査機開発だけではありません。ローバーにはJAXAとISROの機器に加えて、NASAやESAによる観測機器も搭載される予定です。
2026年3月にはJAXAとNASAがLUPEXに関する実施取決めに署名し、NASAの中性子検出器を搭載する協力が正式に進められています。中性子を観測することで、月の地中に存在する水の手掛かりとなる水素を探します。
一つの測定方法だけに頼らず、複数の種類の観測装置を組み合わせることで、「ここには水がありそう」という情報と、実際に掘って分析した結果を照らし合わせられる点も重要です。
なぜLUPEXは月の南極へ行く?水の氷が期待される特別な場所だから

LUPEXの目的を理解するには、「なぜ月の南極なのか」を知ることが重要です。月の南極付近には、水の氷が長期間残りやすい環境が存在すると考えられています。
太陽が当たらない「永久影」がある
月の自転軸は傾きが小さいため、極域にある一部のクレーターでは太陽の光がほとんど、またはまったく届かない場所があります。こうした場所は永久影、英語ではPermanently Shadowed Region(PSR)と呼ばれます。
太陽光が届かなければ温度が非常に低い状態に保たれます。そのため、月へ運ばれてきた水分子などの揮発性物質が蒸発せず、氷として長期間残る「コールドトラップ」になる可能性があります。
NASAの月の水に関する解説でも、月極域の永久影に水の氷が存在することを示す観測結果が紹介されています。
すでに水は見つかっているのに、なぜLUPEXが必要なのか
ここはLUPEXについて特に勘違いされやすい部分です。「すでに月に水があるとわかっているなら、わざわざ探査する必要はないのでは?」という疑問が出てきます。
月周回軌道からの観測は広い地域を調べるのには適していますが、地面の細かな違いまで正確に把握するには限界があります。NASAもLUPEXへの中性子検出器提供について、月面で探査することが水氷の場所や量を詳しく理解するうえで重要だと説明しています。
LUPEXでは、まず広い範囲を観測して水が存在しそうな場所を絞り込み、そこを実際に掘削して試料を分析します。上空からの観測と現地調査を結び付けることで、月全体の水資源を推定するための精度も高められると期待されています。
月南極は水だけでなく探査そのものが難しい
水が期待できる一方で、月の南極は探査機にとって簡単な場所ではありません。太陽が低い位置にあるため長い影ができやすく、場所によって日照条件や温度が大きく変化します。クレーターが多く、起伏のある地形を走る必要もあります。
つまりLUPEXは、水を測定する科学ミッションであると同時に、難しい環境でローバーを安全に移動・運用する技術実証でもあります。ここで得られる経験は、将来さらに大型の探査車を月面で使う際にも役立つと考えられます。
LUPEXのローバーは何がすごい?走る・掘る・調べるための技術を搭載

LUPEXの注目点は、水に関する研究だけではありません。JAXAは将来の月面活動に必要となる「移動」「越夜」「掘削」といった重力天体表面探査技術を獲得することも目的に掲げています。
月面の複雑な地形を移動できる走行システム
JAXAが公開しているLUPEXローバーのシステムには、4脚クローラや4輪独立ステアリング機構が採用されています。車輪を使ってただ前後に進むだけではなく、月面の地形に対応しながら目的地点へ移動することを想定した設計です。
水資源を探す場合、「着陸した場所に水がなければ終了」では十分な調査になりません。自ら水がありそうな地点まで走り、条件の異なる場所を比較できることが資源探査には重要です。
この意味では、LUPEXの移動能力は単なる便利な機能ではなく、ミッションの目的そのものを成立させる重要な技術といえます。
ドリルで地下へアクセスできる
ローバーには約1.5mのアースオーガと呼ばれる掘削装置が搭載される予定です。地表の観測だけでは把握できない地下のレゴリスを採取し、水などの成分を調べます。
月面では日光による温度変化や真空環境の影響を受けるため、地表と地下では水の残り方が異なる可能性があります。そのため、深さ方向の違いを測定できることには大きな意味があります。
将来的に月の水を資源として利用する場合も、「地下何cm、何mまで掘れば必要量を得られるのか」は設備設計や必要なエネルギーを考えるうえで重要な情報になります。
複数の観測装置で水を多角的に調べる
LUPEXには水資源分析計REIWAをはじめ、近赤外画像分光装置、中性子検出器、地中レーダー、中間赤外画像分光装置など複数の機器が搭載される予定です。
たとえば中性子の観測から水素が多そうな場所を探し、分光観測によって地表の特徴を調べ、実際に掘削した試料を加熱・分析する、といった複数の方法を組み合わせられます。
一種類のセンサーだけでは、「水らしい反応があった」という段階で終わる場合があります。異なる測定方法を組み合わせれば、水が存在する位置や量、状態について、より信頼性の高い情報を得られることが期待できます。
LUPEXは「水を見つけるセンサーを載せた探査車」ではなく、移動・地中探査・掘削・試料分析まで組み合わせた総合的な資源探査ローバーと考えるとわかりやすいでしょう。
LUPEXで月の水が見つかると何が変わる?飲み水だけではない重要性

月の水が注目される理由は、宇宙飛行士の飲料水として使える可能性だけではありません。月面で長期間活動するためのさまざまな用途につながる可能性があるからです。
水から酸素や水素を取り出せる可能性がある
水はH2O、つまり水素と酸素からできています。十分な水を確保し、月面で処理できるようになれば、飲料水として利用するだけでなく、電気分解などによって酸素や水素を得ることも理論上可能です。
酸素は人間の生命維持に必要で、水素と酸素は推進剤として利用できる可能性があります。そのため、月の水は「宇宙飛行士が飲むためだけの水」ではなく、宇宙活動を支える原料として注目されています。
地球から必要な物資をすべて運ぶ方法と比べ、現地の資源を利用できれば将来的な輸送負担を抑えられる可能性があります。こうした考え方は「現地資源利用(ISRU)」と呼ばれます。
ただし「水が見つかればロケット燃料にできる」と決まったわけではない
ここで注意したいのは、月に水が存在することと、その水を簡単・安価に利用できることは同じではない点です。
水を採掘する機械、精製設備、水から酸素や水素を取り出す設備、それらを動かす電力も必要です。したがって、「LUPEXが水を見つければすぐ月面基地ができる」という話ではありません。
むしろ重要なのは、将来の設備を設計する前に「そもそも利用に値する資源がどの程度存在するのか」を確かめることです。LUPEXは月資源利用の可能性を現実的に判断するための一歩と位置付けるのが適切です。
月面で生活するための物流を変える可能性がある
宇宙開発では、地球から物資を運ぶこと自体が大きな負担になります。人間が月面で長期間活動するようになれば、水や酸素など必要な物資の量も増えていきます。
もし月面で利用可能な水資源を安定して確保できれば、すべてを地球から持っていく方式から、一部を現地で生産する方式へ変えられる可能性があります。
LUPEXが本当に重要なのは「水を発見すること」より、将来の月面活動を地球からの物資だけに頼らず続けられるかを判断する材料を得ることです。
SLIMやアルテミス計画とは何が違う?日本の月探査の中で見るLUPEX

日本の月探査にはLUPEX以外にもSLIMや有人与圧ローバーなどがあります。名前だけを見ると違いがわかりにくいですが、それぞれの目的を並べるとLUPEXの役割が見えてきます。
| 計画・探査機 | 主な役割 | わかりやすく言うと |
|---|---|---|
| SLIM | 高精度な月面着陸技術の実証 | 狙った場所へ正確に降りる技術 |
| LUPEX | 月南極の水資源調査と表面探査技術の実証 | 月面を走って掘り、水を詳しく調べる |
| 有人与圧ローバー | 宇宙飛行士による広範囲の月面探査 | 人が乗って長距離を移動する月面車 |
SLIMは「降りる」、LUPEXは「降りたあと走って調べる」
JAXAのSLIMは、小型月着陸実証機として月面への高精度着陸を実証しました。従来の「降りられる場所へ降りる」探査から、「降りたい場所へ降りる」探査へ技術を進めたミッションです。
LUPEXではさらにその先へ進み、月面へ到着したあとにローバーで移動して目的の場所を調査します。つまり、SLIMとLUPEXを大まかに分けるなら、SLIMは着陸技術、LUPEXは月面での移動・資源探査技術に重点があります。
水や鉱物など特定の資源を調べるには、目的地点へ正確に接近し、その周辺を自由に移動する能力が必要です。日本の月探査を一連の流れとして見ると、それぞれの技術が将来の活動へつながっていることがわかります。
LUPEXの技術は将来の有人与圧ローバーにもつながる
JAXAは、LUPEXで獲得する重力天体表面探査技術を将来の有人与圧ローバー開発にも活用する計画を示しています。
有人与圧ローバーは、宇宙飛行士が宇宙服を脱いだ状態で車内に滞在しながら、月面を長距離移動することを想定した探査車です。LUPEXとは規模も目的も異なりますが、月面での走行、航法、電力、温度管理などには共通する課題があります。
無人のLUPEXで実際の月面環境を経験できれば、地球上の試験だけでは得られないデータを将来の探査車設計へ反映できる可能性があります。この点では、LUPEXは科学観測だけで完結するミッションではありません。
アルテミス時代の「持続的な月面活動」に関係する
米国が主導するアルテミス計画では、人類が再び月へ行くだけでなく、月周辺や月面で持続的に活動するための仕組みづくりが進められています。
長期間活動するなら、どこへ着陸するかだけでなく、利用できる資源がどこにあるのか、探査車がどこまで移動できるのか、厳しい月面環境で機器をどう運用するのかといった情報が必要になります。
LUPEXはその中で、月南極の水資源という重要なテーマを担当します。水資源の状況を具体的に把握できれば、その後の月面探査地点や設備計画を考えるための基礎データになると期待できます。
LUPEXが成功すると何がわかる?期待される成果と注意点

LUPEXが計画通り観測を行えれば、水資源に関する科学データだけでなく、将来の月面探査につながる実際の運用データも得られると考えられます。ただし、一度のミッションですべてが解決するわけではありません。
月の水を「資源」として評価しやすくなる
重要な成果として期待されるのが、水の量・分布・状態などの現地データです。どのような地形や温度条件の場所に水が存在し、地下のどの深さに多いのかがわかれば、将来の資源探査や採掘方法を検討しやすくなります。
特に価値があるのは、上空から取得した観測データと実際に月面で測定した結果を比較できることです。両者の関係がわかれば、LUPEXが直接走っていない場所についても、周回探査機のデータから水資源をより正確に推定できる可能性があります。
月面でロボットを動かす技術が蓄積される
LUPEXでは、水そのものの研究と並んで、ローバーの移動や掘削、電力管理、熱制御、航法など多くの技術が実際の月面で試されます。
月では地球のように修理担当者がすぐ駆け付けることはできません。通信にも制約があり、険しい地形や大きな温度変化への対応も必要です。こうした環境でローバーを運用した経験そのものが、次世代の無人・有人探査にとって重要な資産になります。
成功しても「月の水問題がすべて解決」するわけではない
LUPEXの観測範囲には限りがあります。月南極の一部を詳しく調査した結果だけで、月全体の水資源を完全に把握できるわけではありません。
さらに、水が一定量確認されたとしても、それを採掘・精製する技術や、経済的に利用できるかという問題は別途検証する必要があります。水が多い場所ほど暗く寒く、電力確保や機器運用が難しいという可能性もあります。
そのためLUPEXの価値は、「月の水をすぐ使えるようにすること」ではなく、これまで推測の部分が大きかった月資源利用について、現地データを使って現実的な判断ができるようにすることにあります。
LUPEXは何がすごいのかをまとめると「月で暮らす未来につながる資源探査」
LUPEXは、日本のJAXAとインドのISROが中心となり、月の南極域で水資源を調べる国際共同ミッションです。2028年度の打上げが計画されており、日本はH3ロケットとローバー、インドは着陸機を担当します。
最大のポイントは、月に水が存在するかどうかだけを調べるのではなく、ローバーで複数地点を移動し、地下約1.5mまで掘削して、水の量・分布・状態を詳しく調べることです。NASAやESAの観測機器も参加し、さまざまな方法で月の水を分析します。
月の水を将来利用できれば、飲料水だけでなく酸素や推進剤の原料になる可能性があります。しかし、実際に利用できるかどうかは水の量や濃度、深さ、採掘に必要なエネルギーなどを知らなければ判断できません。
つまり、LUPEXのすごさは「月に水を見つけること」そのものではなく、人類が将来月で継続的に活動するために、その水が本当に使える資源なのかを現地で確かめようとしていることです。さらに月面での走行・掘削・越夜などの技術も蓄積されるため、日本の将来の有人月面探査につながる重要な一歩といえます。


