宇宙ゴミ(スペースデブリ)が増え続けるなか、「日本はどのような対策をしているのか」「実際に宇宙ゴミを回収できるのか」と気になる人も多いでしょう。スペースデブリ対策は、単に宇宙空間のゴミを拾うだけではありません。
日本ではJAXAや防衛省による観測・衝突回避、衛星やロケットを新たなデブリにしない仕組み、既存の大型デブリを除去する技術開発、国内外のルール整備が並行して進められています。2026年9月時点の最新動向を踏まえ、日本の対策がどこまで進んでいるのかをわかりやすく解説します。
宇宙ゴミ・スペースデブリへの日本の対策は4本柱

日本のスペースデブリ対策は、大きく「観測と衝突回避」「新しいデブリの発生抑制」「すでに存在するデブリの除去」「ルール作り」の4つに整理できます。どれか一つだけで問題を解決するのではなく、複数の対策を組み合わせて軌道環境を守る考え方です。
| 対策 | 主な内容 | 日本の取り組み例 |
|---|---|---|
| 観測・衝突回避 | 宇宙物体の位置や軌道を把握し、接近を予測する | JAXAの観測設備、防衛省・自衛隊のSSA・SDA体制 |
| 発生抑制 | 衛星・ロケットを運用終了後に軌道へ残しにくくする | 軌道離脱、再突入、飛散防止、政府衛星やH3ロケットでの対策 |
| 既存デブリの除去 | 危険性の高い大型デブリへ接近し、捕獲して軌道から離脱させる | JAXAのCRD2、アストロスケールのADRAS-J・ADRAS-J2 |
| ルール作り | 衝突回避や軌道利用、デブリ抑制の基準を整備する | 宇宙活動法、衝突防止ガイドライン、国際ルール形成への参加 |
まず重要なのは「ぶつからない」ための対策
現在軌道上にある小さな破片を一つずつ回収するのは現実的ではありません。そのため、運用中の人工衛星に危険な物体が近づいていないか監視し、必要に応じて衛星の軌道を変更することが重要になります。
位置や軌道が十分に把握できれば、衝突する可能性を事前に評価できます。日本ではJAXAだけでなく、防衛省・自衛隊や国内の衛星運用事業者も関わり、宇宙状況把握の能力を高めています。
「これ以上増やさない」ことが長期的には欠かせない
デブリ除去技術が進歩しても、新しい衛星やロケットを次々と軌道へ放置していては総数を減らせません。そのため、運用が終わった衛星を軌道から離脱させたり、ロケットや衛星が爆発して破片を生まないよう設計したりする対策が必要です。
宇宙ゴミ対策では「回収する技術」だけでなく、「ゴミにしない設計と運用」のほうも同じくらい重要です。
日本は大型デブリの実際の除去にも進んでいる
日本で特に注目されているのが、JAXAの「商業デブリ除去実証(CRD2)」です。民間企業と協力して、軌道上に長期間残っている日本由来の大型ロケット上段へ接近し、最終的には捕獲・軌道離脱させることを目指しています。
単なる研究室内の実験ではなく、実際に宇宙を飛んでいる大型デブリを対象としている点が重要です。技術を実証するだけでなく、将来のデブリ除去サービスを産業として成立させる狙いもあります。
そもそもスペースデブリとは何が危険なのか

スペースデブリとは、地球の軌道上に残っている不要な人工物です。役目を終えた人工衛星、ロケット上段、衛星から放出された部品、衛星やロケットの爆発・衝突によって発生した破片などが含まれます。自然由来の隕石などとは区別されます。
小さな破片まで含めると膨大な数になる
JAXAの商業デブリ除去実証FAQでは、地上から追跡されている10cm以上の物体が2万5千個以上、1mm以上では1億個を超えると説明されています。
特に人工衛星の利用が多い低軌道では混雑が問題になります。JAXAは高度約700~1000km付近が特に混雑しているほか、多数の衛星を運用するメガコンステレーションの増加によって高度600km以下でも混雑度が高まっているとしています。
地上から追跡できないほど小さい破片も多いため、「見えているデブリをすべて避ければ安全」というわけではありません。宇宙機そのものを衝突に耐えやすく設計することも必要になります。
小さくても人工衛星に大きな損傷を与える
軌道上の物体は非常に高速で移動しています。そのため、地上では危険に見えないサイズの破片でも、人工衛星へ高速で衝突すれば機器や太陽電池パネルなどを損傷させる可能性があります。
大きな物体同士が衝突するとさらに深刻です。一度の衝突で多数の破片が発生し、その破片が別の衛星やデブリに衝突するという連鎖につながりかねません。日本が数の多い微小デブリではなく、大型デブリの除去を重視している理由の一つもここにあります。
宇宙だけの問題ではなく日常生活にも関係する
人工衛星は、気象観測、位置情報、通信、地球観測、防災、安全保障など社会のさまざまな分野で使われています。スペースデブリによって重要な衛星が使用できなくなれば、その影響は宇宙産業だけにとどまりません。
デブリとの接近が予想されるたびに衛星を移動させれば、運用担当者の作業が増え、軌道変更用の推進剤も消費します。JAXAも、衝突回避マヌーバの必要性や頻度が増加傾向にあり、衛星運用者の負担がすでに増えていると説明しています。
日本の観測・衝突回避対策はどうなっている?

デブリ対策の出発点になるのが、宇宙空間のどこに何があるのかを把握することです。日本ではJAXAの観測施設に加え、防衛省・自衛隊のシステムも整備され、観測データや接近情報を活用する体制が強化されています。
JAXAは岡山県の施設などでスペースデブリを観測
JAXAは岡山県にある上斎原スペースガードセンターや美星スペースガードセンターなどを利用して、スペースデブリや地球へ接近する小惑星を観測しています。
上斎原スペースガードセンターではレーダー、美星スペースガードセンターでは光学観測設備が利用されており、宇宙物体の軌道把握などにつながるデータを取得しています。
観測しただけで衝突を防げるわけではありません。複数回の観測から軌道を推定し、運用中の人工衛星へどの程度接近するのかを予測できるようにすることが重要です。
防衛省・自衛隊もSSA・SDA体制を強化
SSAは「Space Situational Awareness」の略で、宇宙物体の位置や軌道などを把握する「宇宙状況把握」を指します。SDAはそれに加え、宇宙物体の運用状況や意図、能力なども把握する「宇宙領域把握」という考え方です。
2026年3月に改訂された内閣府の「軌道利用のルール作りに関する中長期的な取組方針」によると、防衛省・自衛隊は2023年3月からSSAシステムの運用を開始し、民間の衛星運用者などへ宇宙物体の接近分析情報等を提供しています。
2025年3月には主に静止軌道上の人工衛星と周辺を継続的に監視するSSAレーダーの運用を開始し、2026年3月には宇宙作戦団が新編されました。JAXAも自らのレーダーや光学望遠鏡の観測データを提供して連携しています。
2025年には衝突防止ガイドラインも制定
衛星が増えるほど重要になるのが、危険な接近が起きたときに誰がどのように対応するかという運用ルールです。内閣府は2025年2月、「人工衛星等との衝突防止に係るガイドライン」を制定しました。
観測技術が優れていても、衛星運用者の間で軌道情報を共有できず、回避方法について調整できなければ十分ではありません。日本の政策が単なる「監視」から、情報共有や宇宙交通管理へ広がっているのはこのためです。
JAXAとアストロスケールは実際の宇宙ゴミ除去を目指している

日本のスペースデブリ対策で世界的にも注目されているのが、JAXAと民間企業によるCRD2です。研究だけで終わらせず、実際の大型デブリへ接近して状態を確認し、その後の捕獲・除去につなげる段階的な計画になっています。
ADRAS-Jは大型デブリの近くまで接近した
CRD2フェーズIでは、アストロスケールが開発した「ADRAS-J」が2024年に打ち上げられました。対象は、2009年に温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」を打ち上げたH-IIAロケットの上段です。
対象物は全長約11m、直径約4m、重量約3トンという大型物体です。通信機能や姿勢制御、専用のドッキング装置などを持たない「非協力物体」であり、接近する側から見ると非常に扱いにくい対象です。
ADRAS-Jは対象デブリへの遠距離からの接近、近距離での撮影、約50mの距離を維持した周回観測、約15mまでの極近傍接近などに成功しました。アストロスケールは2026年3月、主要ミッションを終えたADRAS-Jについて、最終的な大気圏再突入に向けた軌道降下を開始したと発表しています。
なぜいきなり捕獲せず、まず観察したのか
長年放置されたロケット上段は、現在どのような姿勢で回転しているのか、表面や捕獲候補部分がどの程度劣化しているのかを詳細に確認することが難しい対象です。状態のわからない大型物体へ直接近づけば、新たな衝突を起こす危険さえあります。
フェーズIで接近・観測を先に行ったのは、安全に除去するための情報と技術を蓄積する意味があります。ADRAS-Jでは、後継ミッションで捕獲場所として想定されている衛星分離部の状態も確認されています。
大型デブリ除去では「つかむ技術」だけを見るのではなく、対象を発見し、追跡し、動きを推定し、安全な距離を保ちながら接近する一連の技術が必要です。
ADRAS-J2では2027年度に捕獲・軌道離脱へ
CRD2フェーズIIでは、後継機「ADRAS-J2」が同じ大型ロケット上段へ接近し、実際に捕獲して軌道から離脱させることを目指しています。
アストロスケールは2026年9月1日、欧州のIsar Aerospaceと打上げ契約を締結したと発表しました。同社の発表によれば、ADRAS-J2は2027年度にノルウェーからSpectrumロケットで打ち上げられる予定です。
2026年9月時点では、日本は「大型デブリへ接近できた」段階から、「実際に捕獲して軌道から取り除く」段階へ進もうとしています。
大型デブリを優先するのには理由がある
一見すると、小さな破片のほうが数が多いため、そちらを集めるべきだと感じるかもしれません。しかし微小デブリを一つずつ探して回収するのは技術面・費用面で極めて難しくなります。
一方、大型の衛星やロケット上段が衝突・破砕すると、一度に多数の新しい破片を発生させる可能性があります。JAXAも、宇宙環境を改善するうえでまず大型デブリの除去に取り組むことが効果的との考えを示しています。つまり、「個数が多いものから拾う」のではなく、「将来のリスクを大きく減らせる対象を選ぶ」という発想です。
宇宙ゴミを増やさないための日本の法制度と設計対策

すでに存在するデブリの回収には高度な技術と費用が必要です。そのため長期的には、新しく打ち上げる人工衛星やロケットをデブリ化させない仕組みが欠かせません。日本では技術基準だけでなく、法律やガイドラインの整備も進められています。
衛星は運用終了後まで考えて設計する
人工衛星は正常に動いている間だけ安全ならよいわけではありません。ミッション終了後にどのような軌道へ移動させるのか、どのように大気圏へ再突入させるのかまで考えておく必要があります。
さらに、残った燃料や蓄電池などが原因となって運用終了後に爆発し、破片を発生させる事態も避けなければなりません。機器を飛散させにくい構造にすることも含め、打上げ前から「最後までデブリを増やさない」設計が求められます。
政府衛星やH3ロケットでもデブリ化抑制を進める
日本政府の宇宙基本計画工程表では、低軌道を周回する政府衛星について、可能な限り運用終了後に大気圏へ突入するまでの期間を短縮する方針が示されています。
基幹ロケットについても、国際競争力とのバランスを考慮しながら、H3ロケットの第2段機体を制御して再突入させる取り組みを継続する方針です。ロケット上段は大きいため、長期間軌道に残れば将来の衝突リスクになります。除去する前に残さない設計を広げるほうが効率的です。
宇宙活動法とガイドラインで事業者にも対策を求める
日本では「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」、いわゆる宇宙活動法に基づいて人工衛星の管理などに許可制度が設けられています。審査では、機器の飛散を防ぐ仕組みや、管理終了時の措置などスペースデブリ対策に関係する内容も確認されています。
軌道上で他の衛星へ接近して点検や除去を行うサービスについても、内閣府は専用の許可ガイドラインを整えています。デブリ除去衛星そのものが衝突事故を起こして新しいデブリを作ってしまえば本末転倒であるため、安全な接近や運用の制度が必要になるからです。
2026年には宇宙活動法の改正法も成立した
2026年6月には「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、同月17日に公布されました。制御されない人工物についても、打上げ前に構造などが基準へ適合していることを確認する制度が盛り込まれています。
近年は研究用物体やモニュメントなど、従来型の人工衛星とは異なる物体を軌道へ投入する可能性もあります。制御できない物体を安易に増やさないという意味で、こうした対象まで制度を広げる意義があります。
ただし、内閣府の公表内容によれば、宇宙基本法に関する部分を除く改正は、公布から1年を超えない範囲で政令により定める日に施行されます。2026年9月時点で、改正内容のすべてがすでに施行済みという意味ではない点には注意が必要です。
日本のスペースデブリ対策に残る課題

日本は観測から実物デブリへの接近まで進んでいますが、技術実証が成功すれば問題が解決するわけではありません。デブリ除去を継続できる仕組みにするには、費用、国際ルール、事業化など複数の課題があります。
技術的には「つかめない物体」を安全につかむ難しさがある
現在軌道上に残っている古いロケットや人工衛星の多くは、将来回収されることを想定して設計されていません。通信できず、自分で姿勢を制御できず、専用の把持装置も付いていない非協力物体です。
回転している大型デブリへ接近し、相対的な位置や姿勢を判断しながら安全に捕獲するには、高度なセンサー、画像処理、航法、制御技術が必要です。ADRAS-Jの成果が重要なのは、単に写真を撮影したからではなく、この接近・近傍運用技術を実際のデブリで検証した点にあります。
「誰が除去費用を払うのか」という問題もある
人工衛星の運用者が自分の衛星を運用終了時に処分するサービスなら、サービスを購入する顧客を想定しやすくなります。一方、何十年も前から軌道上にあるデブリを除去しても、その恩恵は多数の宇宙利用者に広がります。
このため、公共的な利益が大きい一方で、誰が費用を負担するのかという課題があります。JAXAのCRD2が民間企業とのパートナーシップ方式を採用しているのは、技術実証に加え、将来の軌道上サービス市場を育てる狙いがあるためです。
将来的にデブリ除去が継続的な事業になるためには、政府による実証支援だけでなく、衛星運用終了時の除去サービスや点検、寿命延長などを含む幅広い軌道上サービスとして採算を取れる仕組みが重要になると考えられます。
日本だけでルールを決めても宇宙交通は管理できない
人工衛星は国境に沿って飛んでいるわけではありません。日本の事業者だけが衝突回避ルールを守っても、世界中の衛星運用者と情報交換や調整ができなければ限界があります。
内閣府も2026年3月の方針で、日本独自に実施できる事項と、国際社会との連携が必要な事項を分けて検討する姿勢を示しています。日本は国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)や国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)などの議論にも参加し、デブリ抑制や衝突防止に関する国際的なルール形成を進めています。
スペースデブリ除去は技術問題のように見えますが、実際には「どの物体を誰が除去できるのか」「接近時にどう安全を確保するのか」「どの情報を共有するのか」といった制度面も不可欠です。
除去だけでなく「宇宙交通管理」まで考える必要がある
人工衛星の数そのものが増えている現在、すべての危険を「不要物を除去すれば解決する問題」と考えることはできません。正常に運用中の衛星同士でも接近する可能性があるためです。
そのため日本政府の政策も、以前の「スペースデブリ対策」から、より広い概念である宇宙交通管理へ重点を広げています。観測、軌道情報の共有、衝突確率の評価、運用者同士の調整、デブリ抑制、除去までを一体的に考える方向です。
日本の今後の焦点は、宇宙ゴミを拾う技術競争だけではなく、安全に軌道を共同利用する仕組みを技術とルールの両面で作れるかどうかにあります。
宇宙ゴミ・スペースデブリへの日本の対策まとめ
日本のスペースデブリ対策は、JAXAによる研究だけではありません。JAXAのレーダーや光学設備、防衛省・自衛隊によるSSA・SDA、衛星運用者の衝突回避、デブリ化を防ぐ衛星・ロケット設計、宇宙活動法やガイドライン、民間企業による除去技術が組み合わされています。
なかでもCRD2では、ADRAS-Jが実際の大型ロケットデブリへ約15mまで接近するなどの成果を上げました。後継のADRAS-J2は2027年度の打上げが予定されており、同じ大型デブリを捕獲して軌道から離脱させる段階を目指しています。
ただし、宇宙ゴミ問題は「掃除衛星が完成すれば終わる」ほど単純ではありません。小さなデブリは非常に多く、除去には費用がかかり、各国の人工衛星が同じ宇宙空間を利用しています。だからこそ、観測して避ける、増やさない、危険な大型物体を減らす、国際的なルールを整えるという複数の対策を同時に進める必要があります。
日本はすでに実デブリへの接近実証から除去実証へ進む段階にあり、2026年には宇宙活動法の改正や軌道利用ルールに関する方針更新も行われました。今後は技術実証を一度きりで終わらせず、継続可能な軌道上サービスと国際的な宇宙交通管理につなげられるかが重要になります。



