「MMXとはやぶさ2は何が違うの?」「どちらも宇宙の砂や岩を地球へ持ち帰る探査では?」と疑問に思う人もいるでしょう。MMXと「はやぶさ2」は、どちらもJAXAが中心となって進めるサンプルリターンに関係するミッションですが、目的地や採取方法、科学的な目的には大きな違いがあります。
簡単にいえば、はやぶさ2は小惑星リュウグウを調べた探査機で、MMXは火星の衛星フォボスを主な探査対象とする計画です。MMXは、はやぶさ2で培われた技術を活用しながら、火星圏への往復や本格的な着陸など、さらに複雑な探査へ挑みます。両者の違いとつながりを、2026年9月時点の計画をもとにわかりやすく整理します。
MMXとはやぶさ2の違いは?まず結論を比較

MMXとはやぶさ2の最大の違いは、はやぶさ2が「小惑星リュウグウ」、MMXが「火星の衛星フォボス」を主な探査対象としていることです。同じサンプルリターンでも、目的地が違えば、宇宙空間での飛び方や着陸方法、サンプルの採り方、調べたい科学的テーマも変わります。
| 比較項目 | はやぶさ2 | MMX |
|---|---|---|
| 正式な位置づけ | 小惑星探査機 | 火星衛星探査計画 |
| 主な目的地 | 小惑星リュウグウ | 火星衛星フォボス |
| ほかの観測対象 | 拡張ミッションで別の小惑星を探査 | 火星衛星ダイモスや火星圏も観測 |
| サンプル採取 | 短時間のタッチダウンで採取 | フォボスに着陸して採取 |
| 主な採取方式 | サンプラーホーンと弾丸を利用 | コアラー方式とガスを使う方式 |
| サンプル量 | リュウグウ試料約5.4gを回収 | 10g以上を目標 |
| 科学上の大きな目的 | 太陽系の起源、水や有機物の歴史を調べる | 火星衛星の起源、火星圏の進化、水・有機物の輸送を調べる |
| 打上げ | 2014年12月3日 | 2026年10月20日予定 |
| 地球へのサンプル帰還 | 2020年12月6日に成功 | 2031年度予定 |
はやぶさ2は小惑星からのサンプルリターンを成功させた
はやぶさ2は2014年12月3日に打ち上げられ、2018年6月27日にC型小惑星リュウグウへ到着しました。リュウグウを詳しく観測したうえで、2019年には2回のタッチダウンを実施しています。さらに小型搭載型衝突装置によって人工クレーターを作り、地下由来と考えられる物質の採取にも挑戦しました。
2020年12月6日にはサンプルを収めたカプセルを地球へ届けることに成功しています。JAXAが計量したリュウグウ試料の合計重量は5.424±0.217gで、当初の最小要求量である0.1gを大幅に上回りました。サンプルからは鉱物だけでなく、多種類の有機物やアミノ酸なども確認され、現在も研究が続いています。
MMXは火星圏からの世界初のサンプルリターンを目指す
MMXは「Martian Moons eXploration」の略で、日本語では火星衛星探査計画と呼ばれます。主な目的地は火星そのものではなく、火星の周囲を回っている衛星フォボスです。もう一つの火星衛星ダイモスについても観測する予定になっています。
MMXが計画どおりフォボスの物質を地球へ持ち帰れば、世界初の火星圏からのサンプルリターンになります。単に目的地が遠くなるだけではなく、地球から火星圏へ到達し、長期間観測し、フォボスに着陸してサンプルを採取し、再び火星圏を離れて地球へ戻るという一連の技術が必要です。
探査対象の違い|リュウグウとフォボスでは環境が大きく異なる

はやぶさ2とMMXを理解するうえで重要なのが、リュウグウとフォボスはどちらも岩石質の小さな天体に見えても、宇宙での立場が違うことです。リュウグウは太陽を回る小惑星ですが、フォボスは火星を回る衛星です。この違いが探査機の設計や運用方法にも影響します。
リュウグウは直径約900mの小惑星
はやぶさ2が探査したリュウグウは、平均半径がおよそ450m、直径では約900mの小惑星です。重力が極めて小さいため、地球のように探査機が地面へ降りて、そのまま安定して駐機するという環境ではありません。
そのため、はやぶさ2はリュウグウ表面に長時間とどまるのではなく、上空から降下して短時間だけ表面へ接触する「タッチダウン」を採用しました。微小重力天体では、地表へ近づくこと自体が難しく、少しの速度や姿勢の違いが探査機の動きに大きく影響します。
フォボスは火星を約7時間39分で一周する衛星
MMXが向かうフォボスは、約26×23×18kmほどのいびつな形をした火星の衛星で、リュウグウよりはるかに大きな天体です。それでも地球や月と比べれば重力は非常に弱く、特殊な微小重力環境であることに変わりはありません。
しかもフォボスは火星の近くを約7時間39分という短い周期で公転しています。MMXはフォボスだけの重力を考えればよいわけではなく、火星の強い重力の影響を受けながらフォボスとの位置関係を維持する必要があります。そのため、フォボス公転座標から見るとフォボスの周囲を回るように見える「擬周回軌道(QSO)」を主な観測軌道として利用します。
MMXはフォボスだけでなくダイモスも観測する
はやぶさ2の主ミッションではリュウグウという一つの小惑星を詳細に調べました。一方のMMXでは、サンプルを採取するのはフォボスですが、火星のもう一つの衛星ダイモスも観測します。火星・フォボス・ダイモスを一つの「火星圏」として調べる視点が強いのです。
フォボスとダイモスを比較できれば、二つの衛星が同じような過程で生まれたのか、異なる歴史をたどったのかを判断する材料になります。サンプル分析と現地での観測データを組み合わせられることがMMXの大きな科学的価値です。
サンプル採取方法の違い|MMXはフォボスに着陸して砂や岩を採る

MMXとはやぶさ2の違いが特にわかりやすく表れるのが、サンプルの採取方法です。はやぶさ2はリュウグウへ一瞬接触するタッチダウン方式でしたが、MMXは着陸脚を使ってフォボス表面に降り、サンプリング装置を動かします。
はやぶさ2は弾丸で表面物質を跳ね上げて採取した
はやぶさ2では「サンプラーホーン」と呼ばれる筒状の装置をリュウグウ表面へ接触させ、金属製の弾丸を地面へ発射して砂や小さな岩片を跳ね上げ、サンプルキャッチャへ取り込む仕組みが使われました。
探査機全体がリュウグウ表面へ長時間着陸するのではなく、必要な作業を短時間で済ませて再び上昇するのがポイントです。また、はやぶさ2では人工クレーターを作った後、その周辺へ再度タッチダウンすることにも成功しました。宇宙風化の影響が比較的小さい地下由来の物質を採取できた可能性があることも重要な成果です。
MMXはコアラーを地面に打ち込むC-SMPを使用する
MMXの中心的なサンプリング装置はC-SMP(Coring Sampler)です。探査機がフォボスへ着陸した状態でロボットアームを動かし、先端に備えたコアラーと呼ばれる筒状の機構を地表へ打ち込んで試料を採取します。
採取前には周囲の地形や障害物、地面の状態などを確認します。コアラーによって最表面だけではなく、表面から深さ2cm以上にある物質を含む試料の確保を狙っています。異なる地点で採取を行う計画で、場所による違いを比較できることも科学的に重要です。
MMXにはNASA提供のP-SMPも搭載される
MMXではC-SMPだけでなく、NASAが提供するP-SMP(Pneumatic Sampler)も使用します。こちらは圧縮した窒素ガスをフォボス表面に吹き付け、主に最表層の細かな粒子を採取する仕組みです。
C-SMPとP-SMPでは採取する位置や仕組みが異なるため、二つを組み合わせる意味があります。地下に近い物質と表面の細粒物質を調べることで、フォボス本来の組成だけでなく、宇宙空間にさらされた表層がどのような影響を受けているのかも研究しやすくなります。
MMXが目標とするサンプル量は10g以上
MMXではフォボスから合計10g以上のサンプルを採取することが目標です。はやぶさ2が実際に地球へ持ち帰ったリュウグウ試料は約5.4gなので、重量だけを比べればMMXはその約2倍以上を目指すことになります。
ただし、「量が多いからMMXのほうが優れている」という比較は適切ではありません。それぞれのミッションは科学目的や天体環境が異なります。はやぶさ2では必要量を大幅に上回る試料を確保して大きな科学成果につなげました。MMXでは火星衛星の起源判別などに必要な分析を考慮し、より多くの試料を確保する設計になっています。
科学目的の違い|はやぶさ2は太陽系の原材料、MMXは火星衛星の起源にも迫る

両ミッションには「宇宙の物質を地球へ持ち帰り、精密分析する」という共通点があります。しかし、解こうとしている疑問は完全には同じではありません。MMXでは特に、長年議論されてきた「火星の衛星はどのように誕生したのか」という問題が重要なテーマです。
はやぶさ2は地球の水や生命材料の起源を探った
リュウグウは炭素を多く含むC型小惑星です。このような天体には、太陽系が誕生した初期の水や有機物に関する情報が比較的よく残っていると考えられています。そこで、はやぶさ2ではリュウグウの物質を持ち帰り、太陽系の形成や地球へ水・有機物が供給された過程を探ることが大きな目的となりました。
実際の帰還試料からは、アミノ酸を含むさまざまな有機物などが確認されています。ただし、「リュウグウの物質がそのまま地球生命の起源だった」と証明されたわけではありません。地球の水や生命と具体的にどのような関係を持つのかは、今後も研究が必要なテーマです。
MMXはフォボスがどこから来たのかを調べる
フォボスとダイモスの起源には、大きく分けて複数の考え方があります。その代表が、もともと小惑星だった天体が火星の重力によって捕獲されたと考える「捕獲説」と、火星へ大型天体が衝突して飛び散った物質から衛星が形成されたと考える「巨大衝突説」です。
遠隔観測だけでは決着させにくい問題ですが、フォボスの岩石や砂を地球へ持ち帰れば、元素や鉱物、同位体などを高精度で分析できます。その組成や年代を詳しく調べることで、フォボスが小惑星に近い物質なのか、火星由来の物質から形成されたのかを判断する重要な手がかりが得られると期待されています。
火星圏に水や有機物がどう運ばれたかも重要
MMXが調べるのは衛星の生まれ方だけではありません。地球や火星のような岩石惑星へ、水や有機物がどのように運ばれたのかを知ることも重要な目的です。もし火星衛星が外側の太陽系から飛来した小天体と関係しているなら、惑星へ水や有機物を届けた「物質輸送」の歴史を知る貴重な証拠になります。
つまり、はやぶさ2とMMXは科学目的が完全に別々なのではなく、太陽系初期の物質や水・有機物の歴史を探るという大きなテーマでつながっています。はやぶさ2で小惑星を調べ、MMXではその研究領域を火星圏へ広げると考えると、両ミッションの関係を理解しやすいでしょう。
探査技術と探査機の違い|MMXは「はやぶさ2の大型版」ではない

外見やサンプルリターンという共通点からMMXを「はやぶさ2の大型版」と考えることもできますが、実際にはそれほど単純ではありません。火星圏へ往復するため、MMXには独自の探査機構成や航法・着陸技術が必要です。
MMXは往路・探査・復路の3モジュールで構成される
MMX探査機は大きく「往路モジュール」「探査モジュール」「復路モジュール」の3つから構成されています。地球から火星圏への移動、火星圏での観測・着陸・サンプル採取、地球への帰還という役割に合わせて機能を分担する設計です。
火星圏との往復では、はやぶさ2のような小惑星往復とは異なる大規模な軌道変更が必要になります。打上げ時質量も約4トンとされており、約600kgだったはやぶさ2より大幅に大型です。ただし、大きくなったのは単純に装置が増えたからではなく、火星圏への往還に必要な推進薬や各種システムを備える必要があるためです。
MMXはH3ロケットで打ち上げられる
はやぶさ2は2014年にH-IIAロケット26号機で打ち上げられました。一方、MMXは2026年10月20日午前4時41分03秒に、種子島宇宙センターからH3ロケット10号機で打ち上げる予定です。2026年8月にJAXAが公表した計画では、予備期間は10月21日から11月7日まで設定されています。
宇宙機の打上げ日時は天候や機体の状況などによって変更される可能性があります。そのため、打上げを見たい場合は古い記事だけで判断せず、直前にJAXAの最新発表を確認することが重要です。
MMXではフォボスへ自律的に降下・着陸する技術が重要になる
火星と地球は非常に離れているため、探査機へ命令を送っても瞬時には届きません。両者の位置関係によって通信には片道で数分から20分程度の時間がかかるため、着陸直前の細かな操作を地球からリアルタイムで行うことはできません。
MMXではカメラなどの情報を使って探査機自身が位置や速度を判断しながら降下する自律航法が重要になります。フォボス近傍では擬周回軌道から降下し、安全な場所へ着陸した後にサンプルを採取して再離陸する必要があります。
ローバーIDEFIXが本体より先にフォボスを調べる
MMXには、フランス国立宇宙研究センター(CNES)とドイツ航空宇宙センター(DLR)が共同開発した小型ローバー「IDEFIX」も搭載されます。MMX本体の着陸に先立ってフォボスへ降り、表面を移動しながら状態を調べる計画です。
はやぶさ2でもリュウグウへMINERVA-IIローバーや小型着陸機MASCOTを送り込んでおり、小天体表面へ小型探査機を投入する経験があります。MMXではその考え方をさらに発展させ、ローバーから得られる情報を本体の安全な着陸にも役立てる点が特徴です。
MMXははやぶさ2の後継機?技術的にはつながっている

MMXについて調べると「はやぶさ2の後継」という表現を目にすることがあります。意味としては大きく間違っていませんが、はやぶさ2が初代はやぶさの直接的な後継機だった関係とは少し異なります。
MMXは「はやぶさ3」という探査機ではない
はやぶさ2は、初代「はやぶさ」で得た経験をもとに、小惑星サンプルリターン技術の信頼性を向上させる目的で開発された後継機です。それに対してMMXには「はやぶさ3」という名称は付けられておらず、探査対象も小惑星から火星衛星へ変わっています。
したがって、MMXを単純なシリーズ3号機として扱うのは正確ではありません。「はやぶさ・はやぶさ2で培ったサンプルリターン技術を、火星圏探査へ発展させる計画」という理解が適切です。
サンプルを地球へ持ち帰る考え方は受け継がれている
現地観測だけでなく、試料を地球へ持ち帰ることには大きな利点があります。探査機へ搭載できる分析装置には重量や電力などの制約がありますが、地球へ戻せば大型で高性能な分析機器を使用できます。将来さらに高度な分析技術が登場した場合に備えて、試料の一部を保存することもできます。
はやぶさやはやぶさ2によって、日本は小天体からサンプルを持ち帰り、汚染を抑えながら地上で受け入れて分析する経験を積み重ねました。MMXでもサンプル採取装置や帰還カプセル、地上での試料管理などに、その知見が生かされています。
MMXではSLIMなど別ミッションの技術も生かされる
MMXに受け継がれるのは、はやぶさ2の技術だけではありません。フォボスへの自律降下では、小型月着陸実証機SLIMで開発された画像航法などの知見も活用されています。
その意味でMMXは、一つの探査機の単純な後継というより、日本が複数の宇宙探査ミッションで積み上げてきた技術を組み合わせた計画と見ることができます。JAXAもMMXを、これまでの小天体探査や着陸探査で培った技術を生かす新たな挑戦として位置づけています。
2026年現在のMMXとはやぶさ2はどうなっている?

「MMXが始まるなら、はやぶさ2はもう運用を終えたのでは?」と思うかもしれません。しかし2026年9月時点では、はやぶさ2本体も拡張ミッションで運用されています。MMXの打上げが近づく一方で、はやぶさ2も新たな小惑星探査を続けているという、興味深い時期になっています。
MMXは2026年10月20日の打上げを予定
JAXAが2026年8月20日に発表した計画では、MMXはH3ロケット10号機によって2026年10月20日に打ち上げられる予定です。打上げ後は約1年をかけて火星圏へ向かい、2027年度に到達する計画になっています。
その後は火星圏に約3年間滞在し、フォボスやダイモスなどの観測、ローバーによる探査、フォボスへの着陸とサンプル採取を実施します。2030年度に火星圏を離脱し、約1年間かけて地球へ戻り、2031年度にサンプルリターンカプセルを帰還させる予定です。
はやぶさ2は2026年7月にトリフネのフライバイに成功
はやぶさ2は2020年12月にリュウグウのサンプル入りカプセルを地球へ届けましたが、探査機本体は地球へ着陸していません。カプセルを切り離した後も宇宙を航行し、「はやぶさ2♯」と呼ばれる拡張ミッションを続けています。
2026年7月5日には小惑星トリフネ(98943 Torifune、旧称2001 CC21)のフライバイ探査に成功しました。最接近時にはトリフネの表面から約400mまで接近し、複数の観測機器でデータを取得しています。小惑星フライバイとして世界で初めてレーザー高度計による測距にも成功しました。
はやぶさ2の次の大きな目的地は1998 KY26
トリフネを通過したはやぶさ2は、そのまま拡張ミッションを続けます。2027年12月と2028年6月に地球スイングバイを行い、2031年7月に小惑星1998 KY26へ到着することを目指しています。
1998 KY26は直径約11mという非常に小さな天体で、自転周期は約5分しかありません。リュウグウとはまったく異なる環境を持つため、高速自転する超小型小惑星を近くから調べることで、新しい科学的知見だけでなく将来の小惑星探査やプラネタリーディフェンスにつながる技術的知見も期待されています。
MMXとはやぶさ2の違いを理解するポイント
MMXとはやぶさ2は、どちらも天体のサンプルを地球へ持ち帰る点では共通していますが、同じミッションを繰り返しているわけではありません。はやぶさ2は小惑星リュウグウから約5.4gの試料を持ち帰ることに成功し、太陽系初期の物質や水・有機物の歴史を調べる大きな成果を残しました。
MMXが目指すのは火星衛星フォボスです。フォボスへ着陸し、コアラー方式などによって10g以上の試料を採取し、2031年度に地球へ届ける計画です。成功すれば世界初の火星圏からのサンプルリターンとなり、フォボスとダイモスの起源や火星圏の進化を解明する重要な材料になります。
両者の関係を一言で表すなら、はやぶさ2で完成度を高めた日本の小天体サンプルリターン技術を、MMXが火星圏へ広げていくという流れです。目的地、着陸方法、採取装置、探査機の規模は大きく変わりますが、宇宙の物質を地球へ持ち帰って太陽系の歴史を読み解くという考え方は、はやぶさ2からMMXへ確かに受け継がれています。



