宇宙食にはどのような持ち込み制限があり、なぜ「柿の種」のようなお菓子を宇宙で食べられるのでしょうか。地上では気軽にバッグへ入れられる食品でも、国際宇宙ステーション(ISS)へ持っていく場合は事情が大きく異なります。
結論からいうと、宇宙飛行士が市販のお菓子を個人の手荷物として自由に持ち込めるわけではありません。食品の安全性や保存性だけでなく、食べかすの飛散、包装、臭い、宇宙船との適合性などを確認したうえで搭載されます。
この記事では、宇宙食の持ち込み制限を整理しながら、JAXAの「宇宙日本食」として認証された亀田の柿の種が、どのような工夫によって宇宙へ行けたのかをわかりやすく説明します。
宇宙食の持ち込み制限とは?柿の種も自由に持っていけるわけではない

宇宙食の持ち込みについて最初に押さえておきたいのは、地上の飛行機に乗るときの「機内持ち込み」と、宇宙船へ食品を搭載することはまったく別だという点です。ISSへ運ばれる食品は、ミッションの物資として管理され、安全性などを確認したうえで搭載されます。
宇宙へ持っていく食品には事前確認が必要
JAXAは宇宙食について、安全であること、保存性が高いこと、衛生性が高いこと、食べる際に危険要因が発生しないことなどを条件として挙げています。特に微小重力環境では、地上なら床へ落ちる小さな食べかすや液体も空中を漂ってしまいます。
そのため、食品そのものがおいしく食べられるだけでは不十分です。宇宙飛行士の目や鼻へ入ったり、空調設備や精密機器へ入り込んだりしないようにする必要があります。包装についても、保存性や耐久性、宇宙船内での扱いやすさなどが重要になります。
JAXAが公開している宇宙食の条件では、微粉を出さないことや、特異な臭気を発する食品が適さないことなども示されています。詳しくはJAXA「宇宙で食べる」で確認できます。
宇宙飛行士が希望した食品なら何でも持ち込めるわけではない
宇宙飛行士には食の好みがあり、長期間同じ環境で生活する以上、好きな食品を楽しめることには大きな意味があります。NASAもISSの標準メニューに加え、個人の好みに応じた食品や市販食品を取り入れる機会があると説明しています。
ただし、希望しただけで搭載が決まるわけではありません。JAXAのFAQでも、宇宙食は飛行前にNASAジョンソン宇宙センターのフード・ラボで審査を受け、検査に合格した食品が対象になると説明されています。
「好きな食べ物を選べる」と「好きな食べ物を無条件で持ち込める」は別の話です。宇宙では食品もミッションを構成する物資の一つとして扱われる、と考えると理解しやすいでしょう。
宇宙日本食の認証を受けても必ずISSへ行くわけではない
もう一つ勘違いしやすいのが、JAXAの「宇宙日本食」に認証されれば自動的に宇宙へ運ばれるという考え方です。宇宙日本食は、食品メーカーなどが提案した食品についてJAXAが基準への適合を確認して認証する制度です。
認証された食品の中から、長期滞在が決まった宇宙飛行士による試食などを踏まえて実際に搭載する食品が選ばれます。その後、調達や受入検査、輸送などを経てISSへ届けられます。
つまり、宇宙日本食の認証は「宇宙へ持っていける可能性がある食品として基準を満たした」という意味合いであり、認証と実際の搭載は分けて考える必要があります。
宇宙へ食品を持ち込む制限が厳しい理由

ISSの食品ルールが厳しく感じられるのは、宇宙では地上で当たり前に働いている重力がほとんどないからです。限られた空間に人と精密機器が共存しているため、食品から出るわずかな破片や液体も無視できません。
パンくずや粉が空中を漂う
宇宙食でよく知られている問題が「食べかす」です。地上ならパンを食べて出たくずはテーブルや床へ落ちます。しかし微小重力環境では、落下せずに船内を漂う可能性があります。
NASAも宇宙食の歴史を紹介する中で、パンから出たくずが船内を漂い、機器へ影響したり宇宙飛行士の目や呼吸器へ入ったりする可能性に触れています。そのため、ISSでは一般的なパンより、くずが出にくいトルティーヤが広く利用されてきました。
ただし、「乾いた食品は全部禁止」という単純なルールではありません。NASAの宇宙食にはクッキーやキャンディーなどもあります。重要なのは食品の形状や包装を含め、実際に宇宙で安全に扱える状態になっているかどうかです。
液体はこぼれるのではなく浮遊する
飲み物や汁物にも特有の問題があります。地上でコップを倒せば液体は下へ流れますが、微小重力では水滴が球状になって漂うことがあります。電気系統や精密機器へ入れば、トラブルにつながりかねません。
そのため宇宙の飲料は、専用容器へ水を注入してストローなどで飲めるようにするなど、液体が自由に飛び出さない工夫がされています。スープ類についても地上と同じ器へ注いで飲むわけではありません。
「密閉できるか」「開封後も内容物を制御できるか」は、宇宙食における重要なポイントです。食材そのものだけを見るのではなく、容器とセットで安全性を考える必要があります。
長期保存と衛生管理も欠かせない
ISSには補給船が定期的に到着しますが、地上のコンビニのように必要な食品をすぐ追加できるわけではありません。搭載準備や輸送にも時間がかかるため、宇宙食には長期間品質を維持できる保存性が求められます。
食中毒も大きな問題です。宇宙では体調不良になっても地上の病院へすぐ移動できないため、微生物などの管理は非常に重要です。JAXAの宇宙日本食認証では、原料や最終製品に対する微生物検査、保存性検査、耐圧検査、耐寒・耐熱検査などが求められています。
亀田の柿の種はなぜ宇宙食として認められたのか

「食べかすが問題なら、カリカリした柿の種は宇宙では無理なのでは?」と疑問に感じる人もいるでしょう。実際には亀田製菓の「亀田の柿の種」は宇宙向けに開発が進められ、2017年にJAXAから宇宙日本食として認証されました。
3年間の研究開発を経て2017年に認証
亀田製菓によると、亀田の柿の種を宇宙日本食にする取り組みは2014年に始まりました。その後、約3年間の研究・開発を経て、2017年8月に「米菓(柿の種ピーナッツ入り)」として宇宙日本食認証を取得しています。
当時公表された宇宙仕様の製品は1包35gで、賞味期間は1年6か月でした。中身については市販品と原料・製法が同じとされていましたが、一部使用設備は異なると説明されています。
つまり、柿の種そのものをまったく別の食品へ作り替えたというより、宇宙食として必要な保存期間や製造管理、包装などを含めて条件へ適合させた点がポイントです。
最大の特徴は宇宙で扱いやすい専用容器
宇宙用の亀田の柿の種では、90mm×90mm×40mmのトレーが採用され、トレーのふたと外側底面には面ファスナーが取り付けられました。これにより、容器を船内の所定の場所へ固定しやすくなっています。
ふたも繰り返し開閉できる設計になっており、食べている途中の柿の種が無重力環境で飛び散りにくいよう工夫されました。地上のスーパーで販売されている袋をそのままISSへ持っていったわけではありません。
柿の種が宇宙で食べられた重要な理由の一つは、「市販品だから大丈夫だった」のではなく、宇宙で安全に扱うための専用包装が用意されたことです。
実際にISSへ運ばれた実績もある
認証だけで終わったわけでもありません。亀田製菓は2020年12月8日に「亀田の柿の種(宇宙食)」がISSへ到着したことを公表しています。JAXAの野口聡一宇宙飛行士の長期滞在ミッションページにも、搭載する宇宙日本食として亀田の柿の種が掲載されました。
その後もJAXAのミッションページで登場しており、2025年3月から8月までISSに滞在した大西卓哉宇宙飛行士の「搭載する宇宙日本食」にも亀田の柿の種が掲載されています。単なる展示用の「宇宙食風商品」ではなく、実際の有人宇宙ミッションと関係する食品です。
一方、宇宙日本食の認証期間は原則5年間とされており、更新や製造体制の変更などに関する手続きがあります。そのため、2017年の認証情報だけを根拠に「現在もまったく同じ仕様・認証状態である」と判断するのではなく、最新状況はJAXAの公式情報で確認するのが確実です。
宇宙飛行士は自分の好きなお菓子を持ち込める?ボーナス食との違い

宇宙食について調べていると「宇宙飛行士は好きな食べ物を持っていける」という説明を見ることがあります。これは完全な間違いではありませんが、個人旅行の手荷物のように理解すると実態とずれてしまいます。
通常の宇宙食以外に好みを反映する仕組みがある
ISSでは、多数の標準的な食品が用意される一方、宇宙飛行士の好みを反映した食品も利用されています。NASAは、標準メニューの一部を市販食品や個人的に好む食品で補う機会があると説明しています。
JAXAでも「ボーナス食」と呼ばれる、宇宙飛行士が事前に選んだ食品が紹介されています。2022年には、宇宙日本食が海外宇宙飛行士向けのボーナス食として初めてISSへ搭載されたこともJAXAから発表されました。
長期間地球から離れて生活する宇宙飛行士にとって、食事は単なる栄養補給ではありません。慣れ親しんだ味を楽しむことは気分転換になり、食事の選択肢を増やす意味でも重要です。
ボーナス食も審査なしでは持ち込めない
ここで注意したいのは、「ボーナス」という言葉から自由枠のように感じても、安全面のルールがなくなるわけではないことです。食品を宇宙へ運ぶ以上、ミッションで要求される安全性や保存性などを満たす必要があります。
ISSは限られた空間の中に生命維持装置、実験設備、電気機器などが集まっています。地上では問題にならない食品でも、微小重力環境では思わぬリスクになる可能性があります。
宇宙日本食は精神面でも役割がある
JAXAは宇宙日本食の目的について、日本人宇宙飛行士が日本食の味を楽しみ、長期滞在中の精神的なストレスを和らげ、パフォーマンスの維持・向上につなげることを挙げています。
半年近く限られた環境で生活すると、地上で日常的に食べていた味そのものが貴重になります。カレー、ラーメン、羊羹、緑茶、柿の種といった身近な食品が宇宙日本食として選ばれてきた背景には、栄養だけでは説明できない食事の役割があります。
柿の種のような「ちょっとしたおやつ」にも意味があるわけです。主食や栄養補助食品だけで宇宙食を考えると、この点を見落としやすいでしょう。
宇宙ではどんな食品が持ち込みにくい?地上との違いを比較

宇宙食には「○○はすべて禁止」という単純な一覧だけがあるわけではありません。食品の状態や包装、ミッションによって条件が異なるためです。ただし、宇宙環境の特徴から、扱いにくい食品には一定の傾向があります。
| 食品・状態 | 宇宙で問題になりやすい点 | 主な対策 |
|---|---|---|
| くずが出やすいパン | 細かなくずが浮遊し、目や機器に入る可能性 | トルティーヤなど、くずが出にくい食品へ置き換える |
| 粉末・微粉が飛びやすい食品 | 船内の空気中へ飛散する可能性 | 飛散しない形状や専用包装にする |
| 飲料・汁物 | 液滴が船内を浮遊する可能性 | 密閉容器やストローなどを使用する |
| 保存期間が短い食品 | 輸送・保管中に品質を維持しにくい | 乾燥、加熱処理、適切な包装などで保存性を高める |
| 強い臭いを発する食品 | 閉鎖された船内環境へ影響する可能性 | 臭気も含めて適性を確認する |
パンが難しくても柿の種が食べられるのは矛盾ではない
「パンくずがダメなのに、せんべいのような柿の種がOKなのはおかしい」と感じるかもしれません。しかし、食品名だけで可否が決まっていると考えると矛盾して見えるだけです。
一般的なパンはかじった際に細かな破片が多数発生しやすい一方、柿の種は一口で食べられる大きさです。さらに宇宙用の亀田の柿の種では、トレーを固定し、ふたを開閉できる包装によって内容物が飛び散りにくいよう対策されています。
最終的には個々の食品が宇宙食としての基準を満たせるかが重要です。「乾いている食品だから禁止」「お菓子だから許可」という判断ではありません。
生鮮食品は完全禁止ではない
長期保存できない食品は宇宙食に向かなそうですが、生鮮食品が一切ISSへ運ばれないわけでもありません。JAXAは、ISSへ長期滞在する宇宙飛行士に果物や野菜などの生鮮食品を届ける取り組みについて紹介しています。
NASAも補給船によって新鮮な果物や野菜が届けられることを説明しています。ただし、ISSには家庭の大型冷蔵庫のような食品保存環境があるわけではなく、生鮮食品は長期間保存する標準宇宙食とは扱いが異なります。
つまり「賞味期限が長くない=絶対に宇宙へ行けない」ではありません。輸送方法、到着時期、保存設備、食べるタイミングまで含めてミッションとして成立するかがポイントです。
包装だけ宇宙仕様にすればよいわけでもない
亀田の柿の種を見ると専用トレーが目立つため、「市販食品を専用容器へ入れれば宇宙食になる」と思うかもしれません。しかし、宇宙日本食の認証はそれほど単純ではありません。
現在JAXAが公開している宇宙日本食認証基準では、製造施設や衛生管理、原料食品の検査、最終製品の品質・保存性、耐圧・耐寒・耐熱性能、ISSの調理器具との適合性など、多面的な確認が求められています。
認証基準や申請手続きについてはJAXA「宇宙日本食の申請について」で公開されています。宇宙食とは、食品と包装、製造工程、物流を一体として成立させるものと考えたほうが実態に近いでしょう。
「この食品は宇宙へ持ち込める?」と考えるときの判断ポイント

柿の種の事例からわかるのは、地上の商品を見ただけでは宇宙へ持ち込めるか判断できないことです。宇宙へ持っていきたい食品がある場合、いくつかの観点を分けて考える必要があります。
食べかすや液体が飛び散らないか
最初に注目したいのは、食べたときに内容物をコントロールできるかです。大きな固形物だけでなく、小さな粉や破片まで考える必要があります。液体なら密閉状態を維持しながら飲食できる仕組みが必要です。
柿の種の場合も、「小さくて軽いから宇宙向き」と単純にはいえません。むしろ軽い食品ほど、容器から出れば簡単に漂います。専用トレーやふたによって管理できるようにした点に意味があります。
長期間安全に保存できるか
食品そのものの安全性と保存性も重要です。宇宙船へ積み込む直前にスーパーで購入するわけではなく、製造、検査、輸送、打ち上げ、ISSへの到着まで多くの工程があります。
亀田の柿の種が2017年に宇宙日本食として認証された際には、賞味期間1年6か月という仕様が公表されていました。一方、現在市販されている一般向け商品には別の賞味期間が設定されています。
この違いからも、「宇宙で食べられた商品名と同じだから、市販品もそのまま宇宙仕様」というわけではないことがわかります。
ISSと民間宇宙旅行ではルールが同じとは限らない
将来の宇宙旅行を想定して「自分なら柿の種を持っていけるのか」と考えている人もいるでしょう。この場合は、ISSの宇宙食ルールをそのまま民間宇宙旅行へ当てはめないことが重要です。
宇宙船の構造や滞在時間、運航会社、安全基準によって、持ち込み可能な物品や食品の取り扱いは変わります。数分から数日の宇宙旅行と、ISSで数か月生活する長期滞在では必要条件も同一ではありません。
民間宇宙旅行で食品を持ち込みたい場合は「宇宙食として一般的に可能か」ではなく、利用する宇宙船・運航事業者がその食品を認めているかを確認するのが基本です。
柿の種の事例からわかる本当のポイント
亀田の柿の種は、「意外なお菓子まで宇宙へ持っていける」という面白い話として紹介されることがあります。しかし、この事例から読み取れる本質は少し違います。
身近な食品でも、保存期間を確保し、安全な製造体制を整え、微小重力で使える包装を開発し、必要な審査や検査を通過すれば宇宙食になる可能性があります。反対に、地上でどれほど安全で一般的な食品でも、そのまま宇宙環境で使えるとは限りません。
宇宙食の「持ち込み制限」は好き嫌いで食品を排除する仕組みではなく、限られた宇宙船内で人と機器を安全に守りながら食事を楽しむためのルールだと考えると、柿の種が認められた理由も理解しやすくなります。
宇宙食の持ち込み制限と柿の種についてのまとめ
宇宙飛行士は、地上の旅行のように好きな食品をバッグへ入れて自由にISSへ持ち込めるわけではありません。食品の衛生性や保存性に加え、食べかすや液体の飛散、臭い、容器包装、宇宙船との適合性などを確認する必要があります。
亀田の柿の種は2017年にJAXAの宇宙日本食認証を取得し、宇宙向けには固定しやすく開閉可能な専用トレーなどが採用されました。その後、実際にISSへ運ばれ、2025年の大西卓哉宇宙飛行士のミッションでも搭載する宇宙日本食としてJAXAの公式ページに掲載されています。
結局のところ、「柿の種だから持ち込めた」のではなく、柿の種を宇宙で安全に食べられるよう食品・包装・製造・検査を含めて宇宙仕様にしたから持っていけた、と考えるのが正確です。宇宙食の持ち込み可否を考えるときは、商品名ではなく、宇宙環境で安全に扱える状態になっているかを見ることが大切です。


