DESTINY+(デスティニープラス)は、日本が開発を進めている深宇宙探査機です。「はやぶさ2のように小惑星へ行く計画なの?」「何がそんなにすごいの?」と感じる人も多いでしょう。
DESTINY+の大きな特徴は、ふたご座流星群の母天体フェートンの近くを秒速約36kmという猛スピードで通過しながら観測することと、宇宙を漂う小さなダストを直接分析することです。さらに、そのための新しい探査技術そのものを試す役割もあります。
この記事では、DESTINY+は何がすごいのかを専門知識がなくてもわかるように、フェートン探査、宇宙ダスト、イオンエンジン、はやぶさ2との違い、2028年度以降の最新計画まで整理して解説します。
DESTINY+は何がすごい?わかりやすく言えば3つがポイント

DESTINY+のすごさを一言でまとめると、「高速ですれ違う小惑星を観測する」「宇宙のちりをその場で分析する」「将来の深宇宙探査をやりやすくする新技術を試す」ことを一つの探査機で行う点です。
単に未知の小惑星を撮影するだけのミッションではありません。科学的な発見と、今後の宇宙探査に使える技術の実証を同時に狙っているところがDESTINY+の重要な特徴です。
| すごいポイント | 何をするのか | なぜ重要なのか |
|---|---|---|
| 秒速約36kmの高速フライバイ | 小惑星フェートンの近くを高速通過しながら撮影・観測する | これまで接近が難しかった天体を探査できる可能性が広がる |
| 宇宙ダストの直接分析 | ダストの化学組成、質量、速度、到来方向などを宇宙空間で測る | 地球へ有機物がどのように運ばれてきたのかを考える手掛かりになる |
| 新しい深宇宙探査技術 | イオンエンジンや軽量な太陽電池パドルなどを実証する | 将来、より柔軟で高頻度な深宇宙探査につながる |
DESTINY+とは?どこへ行って何を調べる探査機なのか

DESTINY+は「Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage with Phaethon fLyby and dUst Science」の略称です。JAXA宇宙科学研究所(ISAS)が進める公募型小型計画の探査機として開発されています。
目的地として特に重要なのが、小惑星(3200)Phaethon、通称フェートンです。さらに現在の計画では、フェートンへ向かう前に小惑星アポフィスもフライバイする予定になっています。
現在は2028年度にH3ロケットで打ち上げる計画
DESTINY+はまだ打ち上げられておらず、2026年9月時点では開発中です。現在は2028年度にH3ロケットで打ち上げることを目指しています。
ESA(欧州宇宙機関)の探査機RAMSESと相乗りする計画で、H3によって惑星間空間へ投入されたあと、イオンエンジンを利用して軌道を調整しながら飛行します。
その後、2029年4月に地球へ非常に接近する小惑星アポフィスのフライバイを行い、2030年度には本来の主要観測対象であるフェートンをフライバイする計画です。最新の日程や計画はDESTINY+公式サイトで確認できます。
目的地フェートンは「ふたご座流星群の生みの親」
毎年12月ごろに見られる有名なふたご座流星群。その流星の材料となるダストを供給した母天体がフェートンです。
フェートンが過去に放出した粒子が軌道上に残り、地球がそのダストの流れを横切ると、粒子が地球の大気へ飛び込んできます。高速で大気に突入した粒子が発光して見えるものが流星です。
つまり私たちは毎年、フェートンと関係する物質を「流れ星」として地球から見ていることになります。しかし、肝心のフェートンがどのようにダストを放出しているのかについては、まだわかっていないことがあります。
フェートンは普通の小惑星とは少し違う
フェートンは直径がおよそ5km規模の天体で、太陽へ非常に近づく極端な楕円軌道を回っています。千葉工業大学惑星探査研究センターによれば、近日点は約0.14auで、太陽へ最接近した際には表面温度が700℃を超えるとされています。
しかも、ふたご座流星群を生み出すほど大量のダストを過去に供給している一方、一般的な彗星のような活動をいつでも見せているわけではありません。「小惑星なのに、なぜこれほどのダストを生み出したのか」という点が大きな謎です。
すごさ1|秒速約36kmですれ違いながら小惑星を観測する

DESTINY+で特にわかりやすく「すごい」と感じられるのが、フェートンを秒速約36kmという非常に大きな相対速度でフライバイしながら観測する点です。
秒速36kmは、1秒間に約36,000m進む速さです。時速に単純換算すると約13万kmに相当します。その状態で小惑星へ接近し、限られた時間内にカメラを向けて観測しなければなりません。
「到着して滞在」ではなく「すれ違いざまに観測」する
はやぶさ2は小惑星リュウグウの近くに長期間滞在し、詳細な観測や着陸、試料採取を行いました。これに対してDESTINY+は、フェートンと並んで飛び続けるのではなく、近くを一気に通過します。
この方法を「フライバイ」と呼びます。フェートンは軌道の傾きと楕円の度合いが大きく、探査機が同じ軌道へ合わせて長期間滞在するランデブー探査は非常に難しくなります。
そこでDESTINY+では、フェートンと同じ速度まで無理に合わせるのではなく、接近できる軌道を作って高速ですれ違い、その短いチャンスを利用して観測します。
高速なのにカメラでフェートンを追い続ける
DESTINY+には、小惑星追尾望遠カメラ「TCAP」とマルチバンドカメラ「MCAP」が搭載される予定です。
TCAPは遠くから近づいてくるフェートンを捉え、追尾しながら表面地形などを撮影します。MCAPは複数の波長を使って表面を観測し、場所による物質の違いなどを調べる役割があります。
現在公表されている計画では、DESTINY+はフェートンへ約500kmまで接近し、秒速約36kmで通過しながら観測します。単に高速で飛ぶだけならともかく、急速に見え方や方向が変わる小惑星を捕捉し続け、科学的に意味のある画像を得ることが難しいところです。
高速フライバイ技術が確立すれば、「速度を合わせて長期間滞在するのが難しいから探査できない」と考えられていた天体にも、短時間の接近観測という方法で挑める可能性が広がります。
成功すれば「行ける天体」の種類が増える
フライバイには、目的天体に滞在して何度も観測できないという弱点があります。一方で、すべての小天体と速度を合わせる必要がないため、軌道条件が厳しい天体へ接近できる可能性があります。
JAXAも、高速フライバイ探査技術を獲得することで、探査可能な天体が大きく増えることを期待しています。
そのためDESTINY+の価値は、フェートンを1個調べて終わることではありません。高速ですれ違いながら確実に天体を捉える技術そのものが、将来の小惑星・彗星探査に使える「道具」になる可能性があります。
すごさ2|宇宙の「ちり」を捕まえてその場で成分を調べる

DESTINY+のもう一つの主役が宇宙ダストです。宇宙ダストとは、宇宙空間を漂っている非常に小さな固体粒子のことで、小惑星や彗星などから生まれた粒子も含まれます。
小さなちりと聞くと重要ではないように感じますが、惑星科学では大切な研究対象です。ダストには、どのような天体から生まれ、どのような物質を含んでいたのかという情報が残されている可能性があるためです。
DDAで粒子を1個ずつ直接分析する
DESTINY+には「DESTINY+ Dust Analyzer(DDA)」というダスト分析装置が搭載されます。ドイツのシュトゥットガルト大学を中心に開発される装置で、カッシーニ探査機で使われたCosmic Dust Analyzerの技術を発展させたものです。
DDAでは、探査機へ飛び込んでくる微小なダストについて、化学組成や質量、速度、到来方向などをその場で調べます。
望遠鏡で遠くからダストの集まりを見るだけではなく、実際に飛んできた粒子そのものを測定できる点が重要です。どの方向から、どのような速さで、どんな性質を持つ粒子が来たのかを組み合わせることで、その粒子の由来を考える材料が増えます。
フェートンの近くだけを調べるわけではない
DESTINY+のダスト観測で興味深いのは、フェートンへ接近した瞬間だけDDAを使うわけではないことです。惑星間空間を航行している途中でもダスト観測を続けます。
太陽系内を漂う惑星間ダストに加え、太陽系の外から飛び込んできた星間ダストも観測対象です。つまりDESTINY+は目的地へ向かう移動時間そのものを科学観測に利用します。
点としてフェートンだけを見るのではなく、宇宙空間を移動しながらダストを測り、その分布や性質を調べるところに独自性があります。
地球の有機物はどこから来たのかを考える手掛かりになる
地球には現在も宇宙から大量の微小粒子が降り注いでいます。こうした地球外物質は、炭素や有機物を地球へ運ぶ経路の一つだったと考えられています。
そこでDESTINY+では、宇宙ダストがどのような物質でできているのかを直接調べることで、太陽系の小天体から地球へ物質が運ばれる仕組みの理解を目指します。
重要なのは、DESTINY+が「生命の起源そのものを直接発見する探査機」ではないことです。生命につながり得る炭素や有機物が、宇宙から地球へどのように供給されたのかという過程を理解するための手掛かりを集めるミッションと考えるとわかりやすいでしょう。
フェートンやダストに関する科学目標は、千葉工業大学 惑星探査研究センターのDESTINY+プロジェクトページでも詳しく公開されています。
すごさ3|イオンエンジンや軽量太陽電池で次世代の探査技術を試す

DESTINY+という名前の最初の部分が示しているように、このミッションは科学観測だけでなく「深宇宙探査技術の実証」も重要な目的です。
特に注目されるのがイオンエンジン、軽量な太陽電池パドル、熱を処理するための技術です。一つひとつは地味に見えますが、宇宙探査機を小型・軽量化し、自由度の高い軌道を実現するうえで重要になります。
はやぶさシリーズで知られるイオンエンジンをさらに活用する
イオンエンジンは、電気を使ってイオンを高速で噴き出し、その反作用で探査機を進ませる電気推進の一種です。
一般的な化学ロケットのような大きな推力を一気に出すのは得意ではありません。その代わり、少ない推進剤で長期間にわたって加速し続けられるのが大きな特徴です。
DESTINY+には実績のあるμ10イオンエンジンの能力向上版が搭載され、惑星間空間での軌道制御に使われる計画です。小さな力を長く使い続けて、目的の天体へ到達するための軌道を細かく作っていくイメージです。
4台のイオンエンジンを動かすため「軽くて大出力」が必要
イオンエンジンは電気を必要とします。DESTINY+では4台のμ10イオンエンジンを同時運転できるよう設計されており、それを支えるために大きな電力が必要です。
ところが、単純に巨大な太陽電池パネルを積めば探査機が重くなります。宇宙機では重量の増加がロケットや軌道設計に大きく影響するため、「たくさん発電できること」と「軽いこと」を両立させなければなりません。
そこでDESTINY+では薄膜軽量太陽電池パドルを採用します。JAXAは世界最高水準の高い出力密度を持つ太陽電池パドルとしており、DESTINY+で本格的な実証を行う計画です。
宇宙では「熱を捨てること」も難しい
宇宙探査では寒さばかりが問題になると思われがちですが、実際には機器から生じる熱をどう逃がすかも重要です。宇宙は真空なので、地上のように空気へ熱を逃がすことができません。
DESTINY+では、イオンエンジンを太陽光が当たる環境でも運用しやすくするため、ループヒートパイプによる効率的な排熱を利用します。さらに、可逆展開ラジエータと呼ばれる新しい熱制御技術の実証も計画されています。
はやぶさ2とは何が違う?DESTINY+が狙っている役割

日本の小惑星探査というと「はやぶさ」「はやぶさ2」を思い浮かべる人が多いため、DESTINY+も小惑星の石を地球へ持ち帰る探査機と思われることがあります。
しかし、両者の戦い方は大きく異なります。DESTINY+ではフェートンへの着陸やサンプルリターンではなく、高速フライバイによる撮像とダスト観測が中心です。
| 比較項目 | はやぶさ2 | DESTINY+ |
|---|---|---|
| 主な探査対象 | 小惑星リュウグウ | 小惑星フェートンなど |
| 探査方法 | 対象天体の近くに長期間滞在 | 高速フライバイ |
| 着陸 | 実施 | フェートンでは予定なし |
| サンプルリターン | 実施 | 予定なし |
| 特徴的な科学観測 | 表面観測・試料採取など | 高速撮像・宇宙ダストのその場分析 |
| 工学面の重要テーマ | 小惑星着陸・試料回収など | 高速フライバイ・電気推進の活用拡大など |
サンプルを持ち帰らないから価値が低いわけではない
地球へ試料を持ち帰れば、高性能な研究設備を使って細かく分析できます。そのためサンプルリターンは非常に価値の高い探査方法です。
しかし、すべての天体でサンプルリターンができるわけではありません。軌道や速度の条件が厳しく、探査機が対象と並走すること自体が難しい天体もあります。
そのような天体を「行けないから諦める」のではなく、「高速ですれ違う短時間に最大限のデータを取る」という選択肢を実用化できれば、探査できる対象は増えます。
はやぶさ2とDESTINY+は優劣ではなく、難しい天体へ挑むための異なる探査方法を育てていると考えるのが適切です。
約500kg級の探査機に複数の役割を詰め込んでいる
JAXAが公表しているDESTINY+の予定質量は約500kgです。その探査機で、惑星間飛行、イオンエンジン運用、フェートンの高速追尾撮像、マルチバンド観測、ダストの直接分析などを実施します。
大型の探査機にできるだけ多くの機器を載せるのではなく、限られた規模の探査機で高い科学成果と工学技術実証を両立させようとしているところもポイントです。
将来、このような小型探査機の技術が成熟すれば、一つの大型ミッションに長い期間をかけるだけでなく、目的に応じた探査機をより頻繁に送り出すという選択肢も取りやすくなると考えられます。
アポフィス探査も加わったことでDESTINY+の価値はさらに広がった

現在のDESTINY+を理解するうえで見逃せないのが、当初の主要目標だったフェートンだけでなく、小惑星アポフィスのフライバイが計画に加わったことです。
アポフィスは直径約340mの地球近傍小惑星で、2029年4月13日に地球へ非常に接近します。静止衛星の軌道よりも内側を通過するほどの近距離接近であるため、世界的にも重要な観測機会となっています。
アポフィスを観測してからフェートンへ向かう
現在の計画では、DESTINY+はESAのRAMSESとH3ロケットで相乗り打ち上げされます。RAMSESはアポフィスを主要な対象とするミッションで、DESTINY+もアポフィスのフライバイ観測へ挑むことになりました。
DESTINY+にとっては、フェートンで本格的な高速フライバイを実施する前に、実際の小惑星を対象としてフライバイ技術を試す機会にもなります。
その際に取得した情報を後続探査へ生かすことも検討されており、フェートン研究だけではなくプラネタリーディフェンスへの貢献という新しい意味も加わっています。
プラネタリーディフェンスとは小惑星を「攻撃する」ことではない
プラネタリーディフェンスは日本語で「地球防衛」と表現されることがありますが、SF映画のように小惑星を破壊することだけを意味する言葉ではありません。
地球へ近づく小惑星などを早期に発見し、軌道を精密に計算して衝突可能性を評価し、必要であれば対応策を検討する取り組み全体を指します。
地球へ接近する小惑星が、地球の重力を受けたときに軌道や自転、表面状態などがどう変化するのかを詳しく調べられれば、将来の地球近傍天体研究にも役立ちます。
計画変更が「単なる延期」ではなくなった点にも注目
DESTINY+は当初、イプシロンSロケットとキックステージを利用し、地球周回軌道からイオンエンジンで徐々に高度を上げ、月スイングバイを利用して深宇宙へ出るという計画でした。
しかし、イプシロンSの開発状況などを受けて計画が見直され、H3ロケットによって惑星間空間へ直接投入する方式に変更されました。
これだけを見ると「ロケット変更によって打ち上げが遅れた」と感じますが、新しい軌道ではアポフィスを経由してフェートンへ向かう計画が成立しました。さらに、地球周回中に消費する予定だった推進剤を探査能力の向上に利用し、複数の小天体をフライバイする可能性も検討されています。
つまり現行のDESTINY+は、当初案をそのまま延期しただけではありません。制約が変わったことでミッション設計も組み替えられ、フェートン探査にアポフィス観測という新たな科学的・工学的価値が加わっています。
DESTINY+は何がすごいのかをまとめると「次の探査方法を作るミッション」
DESTINY+は、ふたご座流星群の母天体フェートンへ接近し、秒速約36kmという高速ですれ違いながら表面を撮影します。同時に、ダストアナライザを使って宇宙を漂う粒子の化学組成や質量、速度、到来方向などを直接調べます。
科学面では、フェートンがなぜダストを生み出すのか、宇宙ダストが地球へどのような物質を届けてきたのかを考える重要なデータが期待されます。工学面では、高速フライバイ、イオンエンジン、薄膜軽量太陽電池パドル、熱制御技術などを実際の深宇宙探査で試します。
はやぶさ2のように小惑星へ着陸して石を持ち帰る派手さとは違いますが、DESTINY+の本当のすごさは、「今まで行きにくかった天体にも高速ですれ違って観測する」という新しい探査の選択肢を実用化しようとしていることです。
さらに現在は、2028年度のH3ロケットによる打ち上げ後、2029年にアポフィス、2030年度にフェートンを探査する計画です。DESTINY+が成功すれば、フェートンや宇宙ダストの謎を解くだけでなく、より多くの小天体へ機動的に探査機を送り込む将来につながる可能性があります。



