宇宙ステーションでは、食事の包装、使い終わった衣類、掃除で出たゴミ、壊れた用品など、地上と同じようにさまざまな廃棄物が発生します。しかし、収集車も焼却施設もない宇宙では、ゴミをどのように捨てているのでしょうか。
国際宇宙ステーション(ISS)では、生活ゴミを船内でまとめて保管し、主に役目を終えた無人補給船へ積み込んで、大気圏へ再突入させる方法が使われています。ただし、尿は水として再利用されるなど、すべての廃棄物を同じ方法で処分しているわけではありません。宇宙ならではのゴミ処理の仕組みを、現在のISSの運用をもとにわかりやすく説明します。
宇宙ステーションのゴミの捨て方は補給船で大気圏へ運ぶのが基本

宇宙ステーションのゴミの捨て方を簡単にまとめると、船内でゴミを回収・保管し、不要になった無人補給船へ積み込んで、補給船ごと大気圏へ再突入させるという方法が基本です。
ISSへ物資を届ける補給船は、食料や衣類、実験装置などを降ろしたあと、船内に大きな空きスペースができます。その空間を帰りの「ゴミ箱」として利用することで、新たにゴミ専用の宇宙船を打ち上げる必要がありません。
まず船内でゴミを袋にまとめて保管する
ISSでゴミが出ても、その場ですぐに宇宙ステーションの外へ出せるわけではありません。NASAの宇宙ゴミ処理に関する資料では、食料の包装、衣類、ワイプなどの一般的なゴミを、湿ったゴミと乾いたゴミに分けて袋へ入れ、一時的に保管する運用が説明されています。
湿ったものと乾いたものを分ける理由の一つは、カビや微生物などの問題を抑えるためです。宇宙ステーションは閉鎖された生活空間なので、ゴミの臭いや液体の漏れは地上以上に注意しなければなりません。
しかもISSの内部は微小重力環境です。ゴミ箱へ入れれば重力で底に落ちていく地上とは異なり、小さな包装材や液滴でも固定しなければ浮遊します。そのため、回収したゴミを適切に袋へ収め、限られた収納スペースの中で管理すること自体が重要な作業です。
物資を降ろした補給船にゴミを積み込む
ISSには地上から定期的に補給船が到着します。往路では食料、機器、実験用品などを運んできますが、それらを降ろせば船内には空間ができます。
そこで、地上へ戻す必要のないゴミや不要品を空いた場所へ積み込んでいきます。NASAは、ロシアのプログレス補給船やノースロップ・グラマンのシグナス補給船について、ISSのゴミを搭載した状態で離脱し、最終的に大気圏へ再突入させる運用を公表しています。
日本の補給船でも同じ考え方が採用されています。かつて運用された「こうのとり」(HTV)は、補給物資を届けたあとISSの不要品を搭載して大気圏へ再突入していました。後継となるHTV-Xでも廃棄物資を搭載でき、2025年に打ち上げられたHTV-X1はISSの不用品を載せたうえで離脱し、2026年5月に大気圏へ再突入しています。
最後は補給船ごと大気圏へ再突入する
ゴミを積み終えた使い捨て型の補給船はISSから離れ、エンジンを使った軌道変更によって高度を下げます。そして計画された経路で地球の大気圏へ再突入します。
高速で大気圏へ突入すると、機体は非常に大きな熱負荷を受け、船体と内部に積まれたゴミの大部分が破壊・溶融されます。このためJAXAやNASAでは「燃焼廃棄」「destructive re-entry」などと表現しています。
ただし「補給船もゴミも100%跡形なく燃え尽きる」と考えるのは正確ではありません。材質や形状によっては破片が完全に消失せず残る可能性があるため、再突入は人が住んでいる地域から離れた海域へ向かうよう計画されます。
宇宙ステーションからゴミを宇宙空間へ捨てないのはなぜ?

「宇宙は広いのだから、ゴミを外へ投げればよいのでは?」と思うかもしれません。しかし、宇宙空間への投棄は安全な処分方法ではありません。ゴミが新たなスペースデブリとなり、ISSや人工衛星に危険を及ぼす可能性があるからです。
外へ捨ててもすぐ地球へ落ちるわけではない
ISSは地球の周囲を非常に速い速度で周回しています。宇宙ステーションの中にあるゴミも、ISSと一緒に同じような速度で地球の周りを移動しています。
そのため、ゴミ袋を船外へ押し出したからといって、地上の物体のように真下へ落ちるわけではありません。放出された物体は条件によってしばらく地球を周回し、人工的な宇宙ゴミになる可能性があります。
つまり、宇宙では「外へ出すこと」と「処分すること」はまったく別です。安全に処分するには、補給船の推進装置などを利用して軌道を計画的に変え、大気圏へ戻す必要があります。
小さなゴミでも宇宙船にとって危険になる
軌道上では物体が非常に高速で移動しているため、小さな物体でも衝突すれば大きな損傷につながるおそれがあります。ISSの窓や外壁、太陽電池パネルなどに当たれば、ミッションへの影響も無視できません。
宇宙飛行士が船外活動をするときに工具などを固定しているのも同じ理由です。単なる落とし物であっても、その後は軌道上を移動する人工物になり得ます。
補給船なら再突入する場所まで管理できる
補給船を利用する大きなメリットは、ゴミをただ宇宙ステーションから遠ざけるだけでなく、最終的にどのように軌道から離脱させるかまで管理できることです。
例えばロシアのプログレス補給船は、ゴミを積んでISSを離れたあと、軌道離脱のための操作を行って大気圏へ再突入します。2026年9月にもNASAは、プログレス94がISSで積み込まれたゴミを処分するため計画的に破壊再突入したことを公表しています。
ゴミを自由に漂わせる方法とは異なり、機体の位置や再突入時期を管理できるため、地球低軌道に不要な物体を残さずに済む点が重要です。
宇宙ステーションではゴミの種類によって処理方法が違う

ISSで発生したものがすべて一つのゴミ袋へ入り、そのまま燃やされるわけではありません。一般的な生活ゴミ、排泄物、尿、実験試料などでは扱いが異なります。
| 種類 | 主な処理方法 |
|---|---|
| 食料の包装・使用済み衣類など | 袋などにまとめて保管し、主に使い捨て型補給船で廃棄 |
| 湿った生活ゴミ | 乾いたゴミと分けるなどして密閉・保管し、補給船で廃棄 |
| 尿 | 水回収システムへ送り、水分を回収して再利用 |
| 固形排泄物 | 袋・専用容器で保管し、多くは補給船で廃棄 |
| 不要になった機器 | 必要性を判断し、廃棄するものは補給船へ積載 |
| 重要な実験試料・回収品 | 帰還可能な宇宙船を利用して地球へ戻す場合がある |
食べ物の包装や衣類は代表的な生活ゴミ
宇宙食を食べれば包装材が残り、日常生活ではワイプや使用済み衣類なども発生します。NASAが開発しているゴミ圧縮技術の資料でも、食料包装、衣類、ワイプなどがISSで発生する一般的な宇宙船ゴミとして挙げられています。
地上なら資源ゴミとして分別・回収できる物でも、ISSでは地上と同じ自治体のリサイクルシステムを利用できません。そのため、現状では多くの生活ゴミについて、限られた容積へ効率よく収納し、安全に地球周辺から取り除くことが優先されます。
特に宇宙では収納スペースそのものが貴重です。軽い包装材でもかさばれば生活や実験に使える場所を圧迫するため、宇宙のゴミ問題では「重さ」だけでなく「体積」も大きな課題になります。
電池や危険物は普通のゴミと同じ扱いではない
すべての不要品を無条件に同じ袋へ入れられるわけでもありません。NASAが2026年に公開した長期宇宙飛行の知見では、ISSで使用済み電池を廃棄するとき、端子同士が接触して発火することを防ぐため端子部分をテープで覆っていたことが紹介されています。
危険性のある物質には個別の取り扱いや廃棄手順が設定されます。密閉された宇宙船では火災や有害物質の漏出が重大事故につながるため、地上以上に「ゴミになるまで」ではなく「ゴミになった後の安全管理」が重要です。
実験試料などは地球へ戻すこともある
不要品の多くは大気圏再突入で処分できますが、研究に必要な試料や検査したい装置まで燃やしてしまうわけにはいきません。地上で分析する価値のある物は、帰還能力を持った宇宙船で地球へ戻されます。
この点は使い捨て型の補給船と、地球へ帰還できる宇宙船を区別すると理解しやすくなります。ISSでの物流は単なる「ゴミ捨て」ではなく、廃棄する物、再利用する物、地球へ回収する物を振り分ける仕組みになっているのです。
宇宙ステーションのトイレでは尿や便をどう処理する?

宇宙ステーションのゴミについて特に気になるのが、トイレから出る排泄物でしょう。微小重力環境では便や尿が自然に便器の下へ落ちないため、宇宙トイレは地上とは大きく異なる仕組みを使っています。
宇宙トイレは空気の流れを利用して回収する
重力がほとんど感じられないISSでは、水を流して排泄物を下へ落とす一般的な水洗トイレは使えません。その代わりに、空気の流れを利用して尿や便を吸引・回収します。
宇宙飛行士自身も浮いてしまうため、トイレには体を安定させるための足を固定する設備や手でつかむ部分などがあります。宇宙のトイレで重要なのは、排泄物が船内へ浮遊するのを防ぎ、尿と固形物を適切な処理系統へ送ることです。
尿は「ゴミ」ではなく貴重な水資源になる
ISSでは尿をそのまますべて廃棄しているわけではありません。NASAの環境制御・生命維持システム「ECLSS」には尿を処理する装置があり、尿から水分を回収したあと、ほかの廃水などと合わせて浄化します。
船内の空気から集めた湿気、宇宙飛行士の汗や呼吸に由来する水分なども回収対象です。複数の処理工程と水質確認を経て、再び利用できる水になります。
NASAは2023年、ブライン処理装置を組み合わせたシステムによって、ISS上で水全体の回収率98%という目標を実証したと発表しました。これは「尿の98%がそのまま飲み水になる」という意味ではなく、尿や船内の湿気などを含む水循環システム全体での回収実証です。
便は袋と容器に回収し、多くは大気圏で処分する
固形の排泄物は尿とは異なり、現在のISSでは基本的に水資源として再生する対象ではありません。NASAが宇宙トイレについて説明した資料では、固形排泄物は個別の防水性のある袋へ収め、専用の取り外し可能な容器へ収納するとされています。
一部の容器が分析目的で地球へ戻されることはありますが、多くはほかの廃棄物と同様に補給船へ積み込まれ、大気圏への再突入によって処分されます。
トイレットペーパーやワイプ、使用した手袋などについても、防水性のある袋へ入れて廃棄します。したがって「排泄物は全部宇宙空間へ放出されている」というイメージは、現在のISSの実態とは異なります。
ゴミを運ぶ補給船はすべて燃え尽きるわけではない

ISSへ来る宇宙船は、それぞれ目的や構造が異なります。そのため「補給船は全部、ゴミを載せて燃やす」と覚えてしまうと不正確です。大気圏で処分する宇宙船と、地球へ帰還できる宇宙船があります。
プログレスとシグナスはゴミ処理にも利用される
ロシアのプログレスはISSへ食料、燃料、各種物資を運ぶ無人補給船です。補給を終えたあと不要品を搭載し、ISSから離脱して破壊再突入するため、現在もISSのゴミ処理を担う重要な手段になっています。
米国のシグナスも同様に、物資を届けたあとISSからゴミや不要品を受け入れ、ミッション終了時に大気圏へ再突入する運用が行われています。
つまり補給船は、行きには「宅配便」、ISS滞在中から帰りにかけては「大型のゴミ回収容器」のような役割を果たしていると考えるとわかりやすいでしょう。
日本では「こうのとり」からHTV-Xへ移行している
日本の「こうのとり」(HTV)も、ISSへ物資を届けたあと、不要になった実験機器や衣類などを積み込んで大気圏へ再突入する運用を行っていました。「こうのとり」は9号機まで運用され、現在は後継の新型宇宙ステーション補給機HTV-Xへ引き継がれています。
HTV-X1は2025年10月26日に打ち上げられ、ISSへの物資輸送を実施しました。その後、ISSで不要となった物資を搭載して2026年3月7日にISSを離脱しています。
従来のHTVと異なる特徴として、HTV-XはISSを離れたあとも技術実証を行えるよう設計されています。HTV-X1も約2か月半にわたり軌道上で技術実証を行ったのち、2026年5月26日に大気圏へ再突入しました。
「こうのとりでゴミを捨てている」という説明は過去のISS運用としては正しいものの、現在の日本の補給システムを説明するなら、後継機HTV-Xまで含めて理解するのが適切です。
地球へ帰還できる宇宙船は役割が違う
宇宙船の中には大気圏で機体を廃棄するのではなく、地球へ帰還できるものもあります。帰還能力のある貨物宇宙船では、ISSで得られた重要な実験試料や地上で調査する機器などを戻すことができます。
研究施設であるISSにとって、地上へ成果物を持ち帰れる能力は非常に重要です。そのため、帰還可能な宇宙船の積載スペースは価値の高い試料などに使い、処分してよい大量のゴミは破壊再突入する補給船へ回すという使い分けが合理的です。
| 宇宙船・補給船 | ゴミ処理との関係 |
|---|---|
| プログレス | ゴミや不要品を搭載し、破壊再突入で処分 |
| シグナス | ゴミや不要品を搭載し、破壊再突入で処分 |
| HTV「こうのとり」 | 過去の運用で不要品を搭載して再突入 |
| HTV-X | ISSの廃棄物資を搭載可能。HTV-X1でも実施 |
| 帰還可能な貨物宇宙船 | 主に回収が必要な実験試料や機器などを地球へ輸送 |
月や火星ではISSと同じゴミの捨て方が難しい

ISSで「補給船へゴミを積んで捨てる」という方法が成立するのは、地球に比較的近い低軌道を周回し、定期的に補給船が往来できる環境だからです。月や火星へ向かう長期有人探査では同じ方法に頼り続けることができません。
補給船が頻繁に来ないためゴミを長期間保管する必要がある
地球から遠くなるほど補給は難しくなり、使い終えた補給船を何度も「ゴミ収集車」として利用することも現実的ではなくなります。発生したゴミを長期間、宇宙船や基地の中で安全に保管できる仕組みが必要です。
特に湿ったゴミには水分や有機物が含まれるため、臭いだけでなく微生物の増殖も問題になります。容積の限られた宇宙船では、何か月分ものゴミ袋をそのまま積み上げる方法にも限界があります。
NASAはゴミを圧縮・処理する装置を開発している
NASAでは長期間の有人探査に向けて、Trash Compaction and Processing System(TCPS)と呼ばれるゴミ圧縮・処理技術を開発しています。
目的は単にゴミを押しつぶすことではありません。ゴミの体積を減らし、微生物によるリスクを抑え、長期保管しやすい安定した形にするとともに、含まれている水分を回収することも検討されています。
NASAのTechPortで2026年7月に更新されたプロジェクト情報では、TCPSについて2027年にISSで技術実証を行う計画が示されています。実用化されれば、「ゴミは補給船が来るまで袋で保管する」という現在の方法から、船内でより積極的に処理する方向へ進む可能性があります。
将来はゴミそのものが資源になる可能性もある
地球から遠く離れた場所では、捨てる物をできるだけ減らすことが重要になります。地球から1kgの物資を追加で運ぶにも輸送能力が必要になるため、現地にある物をできる限り循環させたほうが有利です。
すでにISSでは尿や汗などから水を回収していますが、将来は生活ゴミから水を取り出したり、圧縮した廃棄物を別の用途に活用したりする研究も進められています。
ISSのゴミ処理は「いらない物を燃やす」という考え方が中心ですが、月や火星を目指す時代には、捨てる量を減らし、使える資源をできるだけ回収することがさらに重要になると考えられます。
宇宙ステーションのゴミの捨て方は廃棄・再利用・回収の組み合わせ
国際宇宙ステーションで出る一般的なゴミは、袋などにまとめて一時保管し、プログレスやシグナスなどの使い捨て型補給船へ積み込んで、補給船ごと大気圏へ再突入させる方法で処分されています。宇宙空間へ直接投げ捨てるわけではありません。
一方、尿に含まれる水分は生命維持システムで回収・浄化され、再び利用されます。固形排泄物の多くは容器に収めて補給船で処分され、重要な実験試料や機器については地球へ戻す場合があります。
つまり宇宙ステーションのゴミ処理は、単純な「宇宙の焼却処分」ではありません。不要な物は安全に大気圏へ戻し、利用できる水は循環させ、価値のある物は地球へ回収するという使い分けによって成り立っています。地球から遠い月や火星で人が長期間暮らすようになれば、ゴミもさらに重要な資源として扱われることになるでしょう。


